狐の嫁入 その③
駆ける駆ける駆ける駆ける駆ける。
ぼくは狐さんを押しながら裏路地を駆け抜ける。
コンクリートとアスファルトで温められた熱風がぼくらの通り道を吹き抜ける。ぼくは狐さんを盾にしてそれを無視して走り続けた。
「いい加減にしろよ!!暑いし!道はガタガタだし!お前これはわざとだろ!」
狐さんが前で喚いている。当然わざとやっているわけだが、命がけなのに儲けも少ないこの仕事の唯一の役得だ。止めるわけがない。
必死に車椅子にしがみつく狐さんを感じながら、ぼくは車椅子を押して走る。うわっ!?とかひっ!?とか、口から漏れる狐さんはかわいいと思った。普段の傲慢な態度とはうって変わったその姿を、ぼくだけが独占できるのだ。
そんなわけで、意図的に道の荒れた通りや段差の多い道を選んでおいた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ビルとビルの間に出来たトンネルを抜けると、光の国だった。陽光が重く降り注ぐ。
「……運び屋は……まだかよ……」
狐さんは見上げてぼくを見た。光が溢れるこの場では、狐さんの陰影がいつもより色濃くなっている。
風が吹く。狐さんの梳いた髪が舞ってぼくの頬をくすぐった。
ぼくは狐さんと重ねた唇を離した。
「お前、そういうの突然やるの辞めろよな。」
「さーせん。」
全く気持ちがこもっていない返事を返した。
突然、空が曇りだした。あたりは一瞬で影に覆われた。
ざぁぁぁぁ……
「お前ら、何やってんだよ。」
「てめぇが遅えから雨に濡れちまったじゃねえか。」
「ただの通り雨ですよ。延山さん、狐さんを車に乗せてもらえますか。」
泥酔Lemon あきかん @Gomibako
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