第3話 寄り道

 その後、苛立った子分A、Bを白銀が宥めたことにより話はうやむやになった。もちろん計画通りだ。白銀達は昨日のことを深く追求することなく立ち去っていったが、去り際に「このことはまた後日聞くとするよ。用事は俺達で済ましておくから、神藤さんをあまり待たせたらいけないよ」と白銀に言われた。お前が連れてきたんだろうが!と立ち去る背中に文句でも言おうかと思ったが、そんなことより神藤さんのもとに戻らなければ。


 教室に戻ると神藤さんは自席で本を読んでいた。日が傾き始め、昼間よりも少し暗い部屋で読む姿はやはり絵になる。

 神藤さんの美しさにドキドキしながらも彼女のもとへ向かう。俺が口を開こうとする前に彼女が先に声を発する。


「手伝いはもう済んだのかしら?」

「白銀達が後はやっておくって事で帰してもらえたな。待たせてすまない」

「そんなに待ってないからいいわよ。それじゃあ帰りましょうか」

「ああ」


 神藤さんと横並びで下駄箱に向かうと言う、夢のようなこの状況を噛み締めながら歩く。途中、見知らぬ男子、女子からは奇異の視線が送られるが無視する。俺は慣れているためふつうに歩けるが、神藤さんはどうだろうかと隣を見ると平気そうに歩いていた。まあ神藤さんほどの人が他人の視線に慣れていない訳がないため、当然といえば当然である。


 下駄箱に着いた俺たちは靴を履き替えると校門へ向かう。


「それにしても驚いたわ。今時、靴箱に手紙を入れるなんて」

「………普通しないのか?」

「しないと思うわよ。優香達もよく告白されるらしいけど靴箱に手紙は一度もないらしいわ」

「そうなのか……。昨日は来てくれてありがとう」

「ふふ、どういたしまして」


 俺の知っている知識がもう古いことに気恥ずかしさと軽いショックを受けたが神藤さんの微笑みで全てどうでもよくなった。


「今日どこか寄って帰らない?」

「!?ああ、いいぞ」


 まさか神藤さんから誘ってくれるとは夢にも思わなかった。リードしようと思っていたが誘わせてしまった。


「駅前のワクドナルドなんてどうだ?」

「いいわね。私まだ1回しか行ったことがないから楽しみだわ」

「それは珍しいな。友人と行かないのか?」

「私、友人とプライベートでほとんど遊ばなかったから行ってないわね。それに親が厳しかったのもあって……」


 何となく気になって聞いた質問が結果的に神藤さんを落ち込ませてしまった。プライベート、特に友人関係にはあまり触れないようにしよう。それにしても神藤さんはずいぶんと箱入り娘だったらしい。それなら初めてのワクドナルドが俺とだったらよかったんだが、高望みはいけない。

 俺と神藤さんはポテトとドリンクを頼みテーブルで商品を待つ。神藤さんはポテトが好きらしく、なんでも今まで食べたことのない味のポテトフライに衝撃を受けたらしい。添加物の勝利というわけだ。


「佐藤くんは学校楽しい?」

「何だ?藪から棒に。まあ高校生活は楽しめてるな(神藤さんに会えるからな)」

「それはどうして?」

「そ、それは、あれだ。数学が楽しいからだ」

「それにしては今日ぼーっとしてて怒られてたじゃない」


 神藤さんは突然、親みたいな質問してきた。神藤さんもコミュ障か?と思ったが、からかいたかったのだろう。顔がにやにやしてる。神藤さんもそんな顔するんだな。にやにや顔なのに全部許せてしまいそうだ。それにしても心の中読まれてるのか?それともあの告白の後に暴走して何か言ってしまったのだろうか。そう考えたら急に恥ずかしくなってくる。


「私は最近楽しいわ。楽しいというより楽しめるようになったというのが正しいかしら」

「へぇ、それはどうしてだ?」

「知りたい?」

「い、言いたくないなら別に話さなくていい」

「あなたと出会えたからよ」

「……っ!?」


 普段見せないような上品な笑顔ではなくあどけない笑みに不意をつかれる。その笑顔はやばい。それにその発言もやばい。何故それほど好感度が高いのか知らないが嬉しい。日頃の行いがよかったなだろう。それにしても、照れてしまってまともに顔が見れない。


「24番でお待ちの方ー」

「…っ!?はい、ここです」

「お待たせしましたー。ごゆっくりー」


 最高のタイミングでゆるい店員と共にポテトが来た。救世主だ。ポテトを食べながら心を落ち着けよう。


「……そう言ってもらえて、光栄だ。お、俺も神藤さんと出会えてよかった」

「それは嬉しい言葉ね。ありがとう」

「ああ」


 とりあえず何とか乗り切れた。その後はお互い喋ることなくポテトを食べた。俺はコミュ障ゆえに話題を振ることすらできず、神藤さんは淡々とポテトを食べていた。神藤さんは話している感じや食べ方がお嬢様っぽいため食事中にあまり会話をしない教育でも受けたのだろう。その証拠に同じポテトを食べてるはずなのに、神藤さんのポテトは高級料理に見える。おい、ポテトよ。いくら上品に食べられてるからって、自分がキングオブジャンクフードであるポテトフライってことを忘れるんじゃないぞ。

 俺はポテトを食べ終え、ドリンクをずずずっと吸っていると、神藤さんも食べ終わったようだ。この後解散になるのだろうか。そうなると次会えるのは月曜日か。遠いな…。


「ねえ、佐藤くん。明日って予定空いて……」

「空いてるぞ。一日中暇だ。何もすることがなくてむしろ困っている」

「そ、そう。それならWSJに行かないかしら?」

「ああ、行こう。WSJには行ったことがないから楽しみだ」

「え、行ったことない?おかしいわね……」

「何がだ?」

「いえ、何でもないわ。それなら行きましょうか。7時に駅前でどうかしら?」

「大丈夫だ」

「ならそうしましょうか」


 いきなりWSJデートが舞い降りた。神はここにいたようだ!それにしてもWSJか。名前だけ知ってるぐらいでどのような遊園地か分からないな。帰ったら調べてデートプランを立てるか。その前にデートに着ていけるような服を持っていないな。帰りにどこかに寄ろうか。


「それじゃあお互い食べ終わったことだしお開きにしましょうか」

「……ああ」

「ふふ、また明日も会えるわよ」

「……っ!?あ、ああ」


 どうやら神藤さんには俺の内面などお見通しらしい。


 神藤さんは車が迎えに来ているらしく、見送って帰った。いきなり神藤さんの父か母との対面になるかと思ったが、どうやら運転していたのは使用人らしい。使用人がいるなんて相当の金持ちなんだな。


 それにしても明日着る服がないな。何を買おうか。いや、そもそも今までオシャレに気を使ったことがなかったからどうすればいいか分からんな。……ユニシロの店員に聞くか。


 その後、コミュ障の俺が店員に聞けるわけもなくユニシロのマネキンを丸パクリをしたのは言うまでもない。

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佐藤くんはラブコメがしたい! ながなが @naganaga194

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