第2話 完璧超人
その日、午前の授業はあまりにも想定外の出来事で頭に入らなかった。昨日のあの告白が成功していたとは思いもよらなかったため、その喜びで頭の中はお花畑になっていた。頭の中でせこせことお花畑に水やりしているときに、教師から「にやにやするな!」とか「何がそんなにおもしろいんだ!」とか何とか言われていた気がするがどう対応したか全く覚えてない。
昼休み、お花畑の水やりを終えた俺は神藤さんを昼ごはんに誘うことにした。彼女になった神藤さんなら一緒にご飯を食べてくれるはずだ!ただ昨日の告白と違い教室に人がいる中で誘うのは勇気がいるがそこは俺の鋼メンタルで何とかする。俺は神藤さんの机に近付く。机の周りには彼女の女友達A、B、Cがいるがどうとでもなる。
「お、俺と昼ご飯食べないか?」
「……もう昼ご飯は食べてしまったわ」
神藤さんは心なしか悲しそうな顔で答える。
何と言うことだ。もうご飯を食べてしまったらしい。まだ昼休みが始まって…30分も経ってる!?何が起こってる。
「昼休みが始まってすぐに声をかけたわよ。それなのにずっとニコニコしてて返事をしなかったのは佐藤くんじゃない。どうしようと思っていたところに友人に誘われたから先に食べてしまったわ」
少し怒り気味に答える神藤さん。
そういうことか。俺が水やりをしている時に誘っていてくれて、終える頃には昼休みが30分も経っていたということか。やってしまった。せっかくの神藤さんの誘いをにやにやしながら無視するなど知らなかったではすまされない。
頭の中のお花畑に火を放った俺は神藤さんに明日こそは昼ごはんを食べようと誘う。
「そ、それはすまない。明日は一緒に食べないか?」
「え?明日は土曜日なんだけど」
結局、俺の神藤さんとのランチは来週まで持ち越しとなった。
残り10分を切った昼休みで俺は自分の席で黙々とコンビニで買ったサンドウィッチを食べる。俺は世界最強なので泣かないが少しサンドウィッチはしょっぱかった。昨日から上手くいかない。午後の授業は午前中の反省を込めてかなり真剣に取り組んだ。普段真面目に受けてないせいか俺の覚えている内容からかなり進んでいたようだ。午前にも担当をしてくれていたらしい教師もいたが、俺の変貌ぶりに少々、いやかなり戸惑っていたように思える。すまないと思ってるから先生よ、そんなに教科書を読ませようとしないでくれ。
心機一転して取り組んだ午後の授業を終えた俺は帰り支度をする。そこへ神藤さんが荷物を持って俺の方にやってくる。
「もう帰れるかしら?」
「ああ」
「うふふ、何その喋り方。なら帰りましょうか」
笑ってる神藤さんは癒される。昼休みの後悔の念が浄化されていく。
そういえば、今日は神藤さんと帰るんだったな。……神藤さんと一緒に帰るのか!朝の俺と神藤さんが付き合っているという衝撃ですっかり忘れていたが、神藤さんと帰り道デートができるのか…!ここは俺がリードして男らしいところを見せなければ。そしてあわよくば手を握ったりして……。
「帰ろうか」
「ええ」
俺がにやにやと妄想を膨らませながら神藤さんと帰ろうとすると、後ろから声をかけられる。
「神藤さん、申し訳ないんだけど佐藤を少し借りていいかい?先生から荷物を運ぶの手伝って欲しいって言われたんだけどもう少し人手がいるらしいんだ。そこで部活に入ってない佐藤に手伝ってもらおうと思って。いいかい?」
「私は大丈夫だけど……。佐藤くんはどう?」
「俺も大丈夫だ」
「なら決まりだな。じゃあ佐藤ついてきて」
「分かった」
「なら私は教室で待ってるわ」
「ありがとう。すぐ終わらせる」
「ええ、荷物壊さないようにね」
帰り一緒に帰ることを忘れていた俺を待ってくれるとは、やはり神藤さんは天使だったらしい。
白銀は先頭を歩き、子分達は彼の斜め後ろを歩く。それに俺は金魚の糞のようについていく。
白銀聖也は神藤さんと並び、学園のプリンスと称されている。金髪碧眼、眉目秀麗な上に品行方正、文武両道と完璧超人である。さらには実家が超が付くほどの金持ちらしく羨むのが馬鹿らしくなるほどのハイスペック人間だ。
そんな彼が体格のいいゴリラみたいな子分Aとメガネをかけた知的な子分Bを引き連れてわざわざ俺に接触してきたということは、何か裏がありそうだ。であれば、俺と神藤さんの関係のことだろうか。まあ本当に人手が足りていない線も捨てきれないが。
誰一人喋らず歩いてると白銀達は第4校舎裏に着くと足を止めた。全く人気のない場所だ。というかこんな所あったんだな。この場所に見覚えがあるが気のせいかもしれない。この学校はとんでもなく広い。まだ全体を把握し切れていないため他の場所と混同しているかもしれない。
俺の前を歩いていた白銀達はこちらに振り返ると疑惑の眼差しを向けてきた。いつもの人当たりの良い声ではなく、周囲を威圧するような迫力ある声色で俺に話しかける。
「佐藤、本当に神藤さんと付き合っているのかい?」
「ああ、そうだ」
「……そうか。神藤さんは君と何ら接点を持っていなかったはずだ。それが今週になって急に近しくなるのはどうも不自然だ。それに神藤さんは……。何があったか教えてくれるかい?」
てっきり「俺の神藤さんに手を出すな」とか言われて殴りかかってくるかと思ったが、この反応は真相を追求する警察さながらだ。後ろめたいことがないのに後ろめたくなる言われようだ。だが、教えない。絶対に教えない。誰が好き好んで昨日の告白のことを言うんだ。そもそも告白の後どうなったか全く覚えてないのに何を言えばいいのか。
とにかく、ここは俺が無害の人間であることをアピールしつつ話をそらして乗り切るのみだ。笑顔だ、笑顔。
「べ、別に何もないぞえ」
「……絶対何かあったよね。何でそんな引き攣った顔をしてるんだ?やましいことでもあるのか?万が一、神藤さんを脅して無理やり付き合っているのなら見過ごせないよ」
「それはない……はずだから安心してくれ」
「何故そんな他人事なんだ?聖也様をからかっているのなら容赦せんぞ」
「……隠してもいいことはない。素直に吐け」
話をそらすつもりが何故か子分A、Bまで参戦して更にピンチになった。どうしてだ。
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