佐藤くんはラブコメがしたい!

ながなが

第1話 一世一代の大告白(誇張)

 俺は、新舞学園に通う高校1年生の佐藤。

 ちなみに世界最強だ。世界で一番強いってことだ。しかし、周囲の者には隠している。どのように強いかは秘密だ。本当のことだ。嘘ではない。

 顔はイケメン…とまではいかないがフツメン以上だろう。世の中顔ではないから気にしてない。本当のことだ。嘘ではない。

 学業はやればできるが初めてのテストでは平均点を超えたり超えなかったりしていた。やれるならやれと思うかもしれないが、面ど……他にやらなければならないことがあるため仕方ない。


 そんな俺は今からーーー学園のマドンナ、神藤麗奈しんどうれなさんに告白する。自分のことを振り返り、心を落ち着けるためにだ。


 神藤さんは俺と同じクラスであり学園のマドンナである。眉目秀麗、スタイル抜群。肩まで伸びた黒髪は艶やかで頭には天使の輪ができている。学業は学年トップ、運動神経抜群。それに加え、性格も良く、愛想もいい。まさに高嶺の花。

 そんな俺は入学式に新入生代表の挨拶をしていた彼女を目にすると心臓が激しく脈打った。

 その日から今まで見ていた景色に色がついた。

 知らず知らずのうちに彼女を目で追っていく日々。

 ふと目があった時の胸の高鳴り。

 授業に取り組む真剣な横顔。

 そんな彼女が誰か他の男と歩いているのを見かけた時に走る胸の痛み。

 俺が彼女を好きだと自覚するのにさほど時間はかからなかった。


 そんな彼女に告白する。入学して早々多くの男子達が撃沈したと聞いたがやる。緊張はする、振られたらどうしようという恐怖もある。けれどもやる。この気持ちは抑えきれない。世界最強である俺はこんなことで立ち止まらない。


 今日は6月6日。悪魔の数字にリーチのかかった日だが気にしない。天気は幸い晴れ。場所は体育館裏。今の時間は16時50分。神藤さんの靴箱に入れた手紙に記した約束の時間は17時だが彼女を待たせるわけにはいかないため、10分前から待機しておく。待たせてしまえばその時点でゲームオーバーだ。彼女を待つ間に頭の中で告白のシミュレーションをする。話す時の声、スピード、間、そして告白の言葉。それを反芻はんすうする。後は来てくれることを祈るのみ。今日はバスケ部が練習しているらしいが練習の音は耳には入らない。約束の時間になる頃、体育館の影から神藤さんが姿を見せる。


 練習通りやれば大丈夫だ、俺。


 落ち着いてやるんだ、俺。


 勇気の炎を燃やせ、俺。


 己を信じて告白するんだ、俺。





「し、ししし、神藤しゃん。おお俺とっ、付き合ってくださいぃ!」


 持ち前の“コミュ障”を発揮した俺は頭が真っ白になり、その後のことは覚えてない。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 翌朝、昨日あの後どうやって帰ったのか、晩御飯はどうしたのか、風呂や歯磨き、トイレはちゃんとしたのか全く覚えてないが、いつも通り学校へ向かった。昨日のことはもう吹っ切った。いや、流石にまだ吹っ切れてはないが立ち直りつつある。世界最強である俺は泣゛か゛な゛い゛。


 とぼとぼと重い足を引きずるようになめくじ歩きで新舞学園に向かってると、周囲の同じ学園の生徒から見られていることに気付く。その目には興味、好奇心、驚き、嫉妬などの感情が読み取れる。なんだかよく分からないが昨日のことを他の誰かに見られて学園中に広まってしまったと考えるのが妥当だろう。

 あらゆる視線にさらされながらも無視して学園に着き、そして神藤さんのいる俺の教室に向かう。教室の後ろの扉から神藤さんが友人達と居ることが見てとれる。一瞬足が止まったがいつも通りを装い扉を開けて入る。

 クラスメイトからは何か話しかけたい雰囲気を感じたが俺から話しかけることもないため気にせず席に向かう。

 席に着いて筆記用具を用意していると誰かが近づいてくる気配を感じていると耳心地よい声で話しかけられる。


「佐藤くん、今日は一緒に帰りましょうか」

「ししし、神藤さん!?どどどうして俺なんかと??」

「??なんでって佐藤くんと私は恋人だからじゃない」


 どうやら昨日の告白は成功していたらしい。

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