夏の終わりに風が揺らした、風鈴の響き

幻想的な雰囲気のある作品。
世界の終わりという終末を描くファンタジーの匂いを夏の暑さとともに纏って、海を目指した少年少女の逃避行。
作者の、独特な世界観を描き出している。

真っ白なワンピースを着ている時点で、死に関する存在という記号として登場している彼女。
普通と違うと、さりげなく読者に教えてくれている。
彼女にとっては、ウェディングドレスだったかもしれない。

此方彼方でいえば、海は彼方であり、あの世の象徴。
この世が終わっても、あの世は存在する。
だから世界が終わっても海は存在しているといった彼女の考えは、筋が通っている。

駅から海にむかう道がまっすぐ一本道だったのもわかってくる。
彼女にとってはヴァージンロードだったのかしらん。
だから海辺を歩きながら、アダムとイヴの話をしたのだろう。

本作に登場するキャラクターには名前が出て来ない。
「名前を知らないからか、あるいは生来のものか、彼女にはいつも触れれば消えてしまいそうな、陽炎のような雰囲気があった。儚げなんて幻想的なものではなく、朧げというような不安定な雰囲気が」と主人公が語っているように名前がないと現実性が欠落してファンタジー色を強く感じてくる。

告げた彼女の名前は、戸籍上の本名ではない。
あだ名でもなく、彼女が考えた自分の本当の名前だろう。
「良い音だね」「注釈がないと名前だと分からないような、奇妙な名前だった」とあるので、鈴を奏でたときのような響きのような名前「きりん」とか「ちりん」とか「かりん」みたいな感じだったのかしらん。
本名はなにかしらん。
本名を聞いたあとで「ラムネ瓶のように青い、綺麗な音」と表現されている。
タイトルからも考えて、あおだったのかもしれない。