第3話 魔女亡き世界
聖遺物を使用し、おぞましい怪物に成り果てたフューリーの攻撃を突如して現れた赤髪の男は受け止めていた。
「貴様、魔女の仲間か?…」
「いや、違うよ…てか、来て使徒と早々のご対面か」
「何を言っている?…貴様、何者だ」
男はニヤリと笑う、こんな状況というのに緊張感なく男は名乗る。
「俺はハイゼリッド・イージーベルク、まぁ親しみを込めて旅のハイゼとでも呼んでくれ」
「…旅人風情がっ!邪魔をするなぁぁぁぁ!」
怪物は男を切り裂こうとするが、軽く剣で弾きそのままフューリーを吹き飛ばす。
「何故だ、女神の祝福を受けたオレを…」
「お嬢さん達、大丈夫かい?…直ぐに終わらせるからさ」
男は平然と立って怪物を見据える。怪物も赤髪の男を睨み付ける。そして、再び怪物は遅い掛かる。
「
「そうか、なら対策済みだ…」
剣を振り被り、その空間を砕く…夜空の破片が散らばる。まるで、さっきまでの世界は幻覚だったかの様に……
「馬鹿な!女神の寵愛を…」
「あんなの女神じゃねぇよ…後、こっちは慣れっこでな」
男は
「何故だ…オレは…自分は、国の為…世界の為に……」
「知るか、この世界の事も知らない俺に聞くな」
そのままフューリーは灰になって消えていく…遺体すら残らず全てが消えて、その場にフューリーが聖遺物と呼んでいたものが落ちて砕けた。
「あああ!?…嘘だろ、星遺物がぁ…」
それを見て何故か赤髪の男は残念そうにしていた。めちゃくちゃガッカリしている…地に伏してる。
「あの、助けて頂いてありがとうございます。それで、貴方は何者なんですか?」
「ん?…さっきも言ったが、俺は旅のハイゼだ。少年、お前はこの世界の人間だろ?」
(この世界の人間?…オズタニアのって事かな?)
「はい、レガリィ・アルトって言います」
「すまないけどレガリィくん、この世界とかこの状況とか色々説明してもらって良いか?」
「別に構いませんが、僕達は追われてて…」
「じゃあ!安全な所までダッシュだ!」
「えっ!?…グリム、走れる?」
「大丈夫です!魔女さんも行きましょう」
「魔女さっ…まぁ、仕方ないか。マジでどういう状況よコレ…」
取り敢えず僕達はハイゼさんと共に王都の外まで逃げ出した。そして、先程の状況や今まで起きた事…この世界の歴史についても話した。
「なるほどな、魔女の大魔法か…そうだ、そこのグリムってお嬢さん」
「はい、私ですか?」
「ちょっと、あまりグリムに近付かないでよね」
グリムの前に立ったハイゼに黒魔女…基、先程の話しで名乗ったメディが牽制を入れて睨み付けている。
「変な事はしないよメディちゃん、睨むの辞めてよ」
「それでハイゼさん、どうしたんですか?」
「グリムちゃん、俺と一緒に来ないか?」
「ちょっ、何をいきなり口説いてるのよ!」
「ごめん、メディちゃん少し黙って…」
「えっと、一緒にって言うのは…」
「つまり、俺の旅に付き合って欲しいって事…」
グリムは無言で黙ってしまった。ハイゼもグリムを見詰めている…横では突っぱねられたメディがむくれている。
「その旅って僕も行って良いですか?」
「残念ながらそれはダメだ、君はこの世界の人間だ…でもグリムちゃんはそうじゃない」
「この世界の人間じゃない?…どういう事ですか?」
「詳しく言えない、でも俺と来ればグリムちゃんの失われた記憶を取り戻せるかも知れない。グリムちゃん、どうする?」
グリムは無言のまま暫く黙り込んでいた。しかし、少しして口を開いた。
「私、行きます!私は自分の事をもっと知りたいです!」
「ちょっと、グリム本気?…」
「メディさん、私は本気ですよ」
「…なら決まりだな。じゃあ俺の手を…」
「でもお願いがあります…行きたい場所があるんです」
そしてグリムの言うお願いでやって来たのはオズタニアの国境。魔女レニアの大魔法で作られた国を隔離する大結界…魔獣達を湧かす元凶。
それにグリムが触れた。すると、その障壁は忽ち砕けて消え去った。それは僕が初めて見た国の外の景色だった。
「驚いた…大魔法をこんな簡単に…」
「レガリィさん、これで国に戻らなくても外の世界で生きていけます」
「グリム、ありがとう…君は魔女じゃなくてこの国の救世主だったんだね」
「これから、どうしますか?…」
「僕は薬師にでもなろうな?…いや、魔女の末裔である僕にはそれしかないから選択肢はないけど。それよりグリムは本当にハイゼさんと行くの?」
「はい、私は自分が何者が知りたいです」
「なら、僕は止めないよ。君と居られて楽しかった、まるで妹ができたみたいで…それとこれ返しておくよ」
僕は彼女から借りていた『魔法の
「ありがとうございます…私もレガリィさんと出会えて良かったです」
暫くの間、僕達の間を沈黙が支配する。これでお別れは寂しいけど…グリムが望むならそれが良いんだ。
「レガリィさん、何から何までありがとうございました。この恩は忘れません…ハンバーグ、ご馳走様でした!」
「あぁ…──こちこそありがとう」
その後は言わなかった。またいつか…それは必要無いと思った。僕は国境を超えてオズタニアの外に…まだ見ぬ広い世界に歩き出した。
◆
レガリィさんと別れを済ませた後、ハイゼさんとメディさんの下に戻る。すると宙に浮いたメディさんが私に近付いて来る。
「グリム、アンタそれ癪だけどハイゼに渡して置いて…術式はフィルターで守られてるから良いけど、いざと言う時に私を呼べないから」
「あっ、はい!…ハイゼさんこれ預かってて下さい!」
「えっ、うん…良いけど」
メディさんはどうやら、この『魔女の
そう言えばメディさんは私の名前を知ってたみたいだけど、もしかして知り合いだったりするのかな?
「…それでハイゼさん、どうするんですか?」
「じゃあ、俺に掴まって…飛ぶから」
急に私はハイゼさんに抱き寄せられる。私がいきなり困惑していると、横でメディさんが「近付き過ぎ!何やってんの!」と抗議している。
「さぁ、飛ぶぜ!…メディちゃんは着いてきて!」
そう言うと視界が…いや、世界があの騎士の時みたいに歪む。そして、周りが満天の星空に変わり…そして、それが流れ始める。
「あのっ!ここはいったい…」
「あぁ、もう一つの星間宇宙っていうのかな?…まぁ、別の世界までの通り道さ」
「綺麗…あっ、メディさんは!?」
「いるわよ、それよりさっきから追っかけて来てるのは?…」
「あぁ、毎回待ち伏せしてるんだ…グリムちゃん、おっかないから見ない方が良いよ」
「えぇぇ!?めちゃくちゃ気になる言い方するじゃないですか!」
そんな話をしていると星々の向こうに一際、大きな明かりが見てきて…──その輝きに包まれ、私は眩しさに思わず目を閉じた。
「…グリムちゃん、もう目を開けて良いよ。目的の場所には着いたから」
目を開けると見知らぬ大通りにいた。沢山の人達がが歩いていて、天井には星空…なのにまるで室内に居るみたいだった。
「ようこそグリムちゃん…俺達の基地、
魔女亡き世界と白き魔女[完]
魔女亡き世界のフラグメント(仮) 藤倉(NORA介) @norasuke0302
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