第2話 魔女狩りの騎士

…死んだ、皆んな死んだ。村の人達は一人残らず…逃げながら後ろを振り返ると森が燃えている。あぁ、僕のせいで…──


「…私のせいです…私が魔女だから……」

「いや、それは違う!元はと言えば僕が君を…」

「…だから、私のせいじゃないですか…」


…何も言い返せない。この国では魔女であるだけで始末される。魔女無き世界で僕はたった一人の魔女の末裔かも知れない…そう思っていた矢先に現れた白い魔女、僕は知りたかった。


世界を大魔法で閉ざし、この国を隔離した魔女は本当に悪なのか…母が、魔女がどんな存在なのか。だから、グリムと出会えて嬉しかった…そう、僕の好奇心が皆んなを巻き込んだ。


『…レガリィ!早く逃げな!』

『でも、貴方は…』

『俺は親父や今、騎士団と戦ってる兄貴のところに行かないとだからさ。早くその子を連れて逃げな…』


多分、あの人は気付いていた。いくらローブを着てフードを被って変装してもグリムの珍しい白髪は森で見つかった魔女と同じ特徴だから…分かった上でこの人は……


「…絶対に君は僕が守るから!」

「でも、私を騎士団に突き出せば…」

「そんなんで許す連中じゃない、何より僕が君を守りたいんだ」

「…何から何まで、ありがとうございます……」


しかし、そうは言っても既に村の周辺は他の王国騎士団が包囲して逃げるどころじゃない…仕方ない。


「見つけたぞ、白髪の女だ!捕らえろ!…男の方は殺せ!」

「『魔法の欠片フラグメント』:フレイムっ!」


僕は『魔法の欠片フラグメント』を人差し指と中指の間に挟み、振りかざすと魔法の炎が騎士達を吹き飛ばす。母の本の記載通り本当に魔法が使えた。


「グリム、このまま町まで突っ走っるぞ!」

「はい!体力には自信があるので、頑張って着いて行きます!」


僕達は町中を駆け出し、中央まで走り抜けた。王国の出口までは後少しで…


「…焔聖剣ガラーティア

「…──防げ!フレイム!」


突如として、こちらに向かって来た炎の斬撃を何とか『魔法の欠片フラグメント』の炎で相殺したが、僕達はその衝撃で吹き飛ばされた。だから、咄嗟にグリムを抱き止めたのは正解だった。


「…グリム、大丈夫?」

「私は大丈夫ですが…レガリィさん、頭から血が…」


どうやらさっきの衝撃で吹き飛ばされた時に頭を打ってしまった様だ。しかし、今の炎の斬撃は……


「残念だよ、ユーラスくんの友人を粛清しなければならないとはね…」


そこにいたの王国騎士団第三部隊隊長フューリー・クレセントだった。しかし、何故…


「何で…貴方が、騎士が魔法を使っているんですか!この国では魔法は禁止されている筈っ!」

「魔法では無い、そんな忌々しいものと一緒にするな…」


昼間にあったフューリーさんとは全くの別人と見間違う程に声は冷たく、目も殺意に満ちていた。


「これは聖遺物と言ってね、我々上級騎士に与えられる女神の祝福だよ。だが何故、君はそれを持っている?」


フューリーさんが聖遺物と呼ぶそれは間違えなく『魔法の欠片フラグメント』だ。恐らく、それを聖遺物だと王様から信じ込まされているのだろう。


「聞いてください!フューリーさん達は王様に騙されています!それは魔法です!」

「話はそれだけか?…では行くぞ」


フューリーさんが剣を構えると、剣身に炎を纏う。戦うしかないのか…でも、勝てる気がしない…それでも……


「魔女狩りの騎士、フューリー・クレセント…──参る!」


僕は剣を構えたフューリーさんに向かって駆け出す。彼女だけは守ってみせる!全てを懸けて…


「…フレイム!」


目の前でレガリィさんが戦っている。私は何もできない…彼はあんなにもボロボロになってまで戦っているのに…私に魔法が使えたら、無能の魔女じゃなかったら……


『アンタは無能の魔女なんかじゃないッ!アンタは…──』


…あれ?私を無能の魔女と呼んだのは誰だっけ?…分からない、思い出せない。私が『魔法の欠片フラグメント』を使えば?…私には無理だ、分かるんだ。

魔法の使えない人間でも魔法を使える道具…それでも私に魔法は使えない。確信がある…何故なら……


目の前の騎士の斬撃を受け、後ろの吹き飛ばされ地面に叩き付けられる少年の姿が映る。彼の手には『魔法の欠片フラグメント』は無い…


「これで、終わりだ…」


騎士は剣を振り上げ、そこには炎か再び宿る。またあの斬撃が来る…──動け、動かなきゃ…ダメなんだ!私しかいないんだ!


『アンタの魔法は…──』


騎士が再び炎の斬撃を放ち、それはレガリィに直撃する…しかし、その前に少女が飛び出した。そして…──


「ばっ、馬鹿な…神の一撃を……」


騎士は目を疑う…焼き尽くされる筈の二人は平然とそこに立っている。炎の斬撃は忽ち掻き消された。


「グリム…君は何をしたんだ?」

「思い出したんです、私の魔法は魔法を殺す魔法なんです」


だから魔法が使えなかったんじゃなく、魔法をずっと使っていたんだ。だから私には使えなくてもレガリィさんなら…


「レガリィさん!私の『魔女の欠片フラグメント』を使って下さい!」

「…あぁ、分かった!」


少年は白き魔女から受け取ったソレを振りかざす…──魔法陣が浮かび、そこに現れたのは…


「…ったく、呼ぶのが遅かったじゃない。まぁ、呼んでくれた事には感謝するわ」


そこに居たのは黒き魔女、グリムとは正反対の服装をした魔女だった。


「新手か、まさか魔女が今の世に二人もいるとはな…」

「そこら辺の魔女と一緒にすんな…私は天才なのよ!」

「忌々しいな…愚かな魔女だ」

「へぇ、騎士様が相手なら同じ条件で相手をしてあげるわ」


フューリーが彼女に炎の斬撃を放つ。しかし魔女は、それを防御魔法であっさりと弾く…そして空かさず反撃する。


「燃え尽きろ、炎剣フレイムソードッ!」

焔聖剣ガラーティア!」


戦力差は無く互角、フューリーの一撃を防御しながら反撃…フューリーも魔女の魔法を躱しながら炎の斬撃を放つ。


「へぇ、やるじゃない。なら、これはどうかしら…」


彼女がそう言い放つと、周りに沢山の人影が現れる。それは僕の知ってる村の人達や魔女だったり騎士達だったり…それはまるで…


「ここは先の大戦で沢山の人が死んだ場所よ、特に貴方達に恨みがある人間の想いがあるわ」

「死霊術とは…忌々しい」

「そんなのと一緒にしないでくれる?皆んなは一時的に支援してくれただけ…これが私の大魔法よ」


彼女の背後に沢山の魂が集まり、魔女は魔法を…騎士は剣を、村人は手を繋ぎ…──想いが魔女に集う。


「これが貴方達がやってきた事への重み…──虹想魔法アルカンシェル・パイル!」

「避けれん…なら、受け斬るっ!」


七色の爆裂が騎士に直撃する。その爆風、そして輝き…亡霊達は姿を消し…──そこには剣を折られた騎士が膝を着く。


「これで終わりよ…グリム達の事は諦めなさい」

「まだだ…まだ終わっていない…」

「そんなボロボロで何が出来るの?…」


すると立ち上がった騎士は懐から何かを取り出す。宝石の埋め込まれた器の様なもの…


「これは自分にだけ与えられた聖遺物だ…」


それを騎士は自分の胸に叩き付ける…──その瞬間、周りの空気が一変する。


「ウガァぁあぁぁぁあぁぁぁ!」

「…何!?何をしたのよアンタ!」


雄叫びを上げるフューリーに黒い何かが絡み付き、全身を鎧の様な何かが包み…背後には恐ろしい怪物が現れる。その姿はもはや人間では無い。


「これが女神様の祝福の力…これで、世界を忌々しき魔女から守れる」

「何が騎士よ、貴方が怪物じゃない…」

「怪物か…世界の為なら、それでも構わない」


騎士だったものは、人間とは思えないスピードでの懐に入り、魔女を軽く吹き飛ばす…飛ばされた魔女は建物に激突し、そのまま怪物はレガリィ達に迫る。


「…させないわよ!私のグリムに手を出すな!」


間一髪で、魔女が防御魔法を展開しグリムとレガリィを守る。怪物は再び標的を魔女に変える…彼女も懸命に戦っているが劣勢なのは間違えないだろう。


グリムには戦う術は無く、レガリィの持つ『魔法の欠片フラグメント』はフューリーとの戦闘の中で吹き飛ばされ魔女を助けれるものは誰も居ない。


「…では黒き魔女、まずお前から粛清しよう」


フューリーの動作に合わせて背後の怪物の爪が、魔女に襲い掛かる。魔女は慌てて防御魔法を使うが…間に合わず……


「…──おっと危ねぇ…ちょいと遅かったかな?」


その一撃を見知らぬ男が剣にて受け止めていた。燃える様な赤毛の髪を束ねた男…何処から現れたのか、彼が魔女を庇っていたのだった。

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