魔女亡き世界のフラグメント(仮)
藤倉(NORA介)
魔女亡き世界と白き魔女 編
第1話 白帽子の魔女
150年前、オズタニア王国の主導の下に魔女と呼ばれる異端者達を排除する為、『魔女狩り』が遂行された。
その結果、魔女でなくとも繋がりや関係のある者、罪の無い人々まで火炙りの刑に処された。
怒り狂った魔女達は反旗を翻し、王国と魔女による戦争へと発展した。
最初は優勢に見えた魔女達だったが、『王国騎士団』の介入により魔女達は劣勢に追い込まれていった。
そして、追い詰められた魔女達は対抗する為に『大魔法』を使用したが…それでも結果は魔女の敗北で戦いは終わり、関係の無い人々までが犠牲になった。
これが『魔女狩り戦線』という国が犯した過ちである。
(当の連中はきっと認めないが……)
あれからオズタニアは『大魔法』により閉されてしまった。もしくは隔てられてしまった。
そして『魔女の呪い』というべきなのか、大量に魔獣が出現する忌まわしき世界になった。
「…ってのが歴史のテスト範囲だ」
と、僕はテスト範囲を忘れた友人に歴史の範囲を説明していた。
「レガリィ、テスト範囲とか良く覚えてんな?」
「ユーラス、お前が授業中に寝てるからだっ」
「剣術の稽古で疲れてんだよぉ、そのくらい良いだろ?」
「はぁ、剣術だけで王国騎士団入れるとは限らないぞ?」
「俺はなるぜ!騎士団に入って、魔獣から皆んなを守るんだ!」
(やる気だけはあるなぁ)
僕の友人、ユーラス・ニコラの夢は皆んなを守れる立派な騎士になる事だ。
「それより、お前は卒業したらどうすんだよ?」
「僕はこのままで良いや、そっち方が皆んなも喜ぶし」
「まぁ、お前の薬凄いもんな!まるで魔法だぜ!」
(魔法か……)
誰にも話してないが、僕はどうやら魔女の家系だったらしい。だから僕には昔から製薬の才能だけはあった。多分、魔法の才能も無い訳じゃないだろうが……しかし、この国では魔法は禁止されているし、僕が魔女の家系だと分かれば騎士団に異端者として殺される。
魔法があっても役に立たない、自らを危険に晒すだけだ。
「てか何だっけ?その王国騎士の人、教えてくれてる人の名前……」
「フューリーさんの事か、それがどうした?」
「めっちゃ偉い人って聞いたけど、確か騎士団の隊長だっけ?」
「まぁ第3部隊の隊長だしな」
「大丈夫か?王国騎士団って悪い噂しか聞かないし」
「フューリーさんは優しい人だぞ?他の騎士のお偉いさんは知らんが、良くあんなに凄い人が俺を無償で指導してくれるなって思う」
「お前の才能が認められたって事じゃないか?」
「まぁ、だと良いんだけど……」
ユーラスは残念そうに言った後、徐に立ち上がった後、チラチラとこちらを見ながら……
「そろそろ学校終わりだよな?今日、昼までだし」
「あー、後5分?ホームルームがまだあるけど」
「そうか、後5分か……」
「はぁ…行って来いよ、先生には僕が言っててやるよ。フューリーさんとこだろ?」
「サンキュー!恩に着る!」と、ユーラスは走り出して行ってしまった。
その5分後、先生が来て生徒を起立させホームルームが始まった。僕はユーラスの事を先生に言った後、ホームルーム中、先生の話も聞かず窓の外を眺めていた。
終わりの「起立!」という先生の声に反応して僕は咄嗟に立ち上がり礼をした。今日は帰ったら村長から頼まれた薬とその材料が切れていたので森に薬草やその他の材料を採集しなきゃ、とか今日の夕飯の事を考えて油断してた。
それから帰宅、僕の家は町外れの村にある。町の大通を抜けて門から出て暫くするとペルナ村に着く…──と、その途中に、とある人物と会った。
「あれ?君、ユーラスくんの……」
僕は思わず固まってしまった。声を掛けてきたのは優しそうな男性、それがユーラスが言っていたフューリーさんという騎士だった。
僕は恐怖を抱いていた。勿論、初対面ではない…だが、怖かったのは僕達の村の方から歩いて来た事だ。
「何か、うち村に用でしたか?」
「それが問題があってね──魔女だよ」
「魔女…確か先代の騎士団に倒された筈では?」
「それがね、村外れの森で魔女の目撃情報があってね。とても目立つ白い魔女だ、君も村に向かうなら気を付けた方が良いよ」
「はい、ご忠告ありがとうございます」
フューリーさんは初対面の時も確かに優しかった。でも"魔女"だった、と聞く母が遺した本に騎士に血筋をバレてはいけない、その事を他人に話すな…と、僕が物心着く前に亡くなっていた母から伝わっていた。
だから正直、昔から騎士団を信用出来ずにいる。それと僕の家は町外れの森の近くにある。
「魔女……」
あの戦争以来、この国で魔女の目撃情報は無かった。それが目撃された言うことは、この村や森で騎士団による大体的な調査が行われる筈だ。
魔女が目撃された森付近に俺の家はある…もしかしたら調査されるかも知れない。
それはマズい、家の中には母が遺した本や薬の調合レシピが沢山ある。僕が魔女の血筋だと証明する物ばかりだ。
それに森を閉鎖でもされたら薬を作れ無くなる。あの騎士団なら森ごと焼き払ったり何て躊躇なくやりそうだ。
僕は家に帰り、採集用の籠を手に森へと急いだ。
「えっと、ストックが無かったのはチェジャの葉……あと、クラゲキノコ……」
僕は森のそんなに奥に行かない範囲で薬草や他の材料を集めていた。奥に行くと魔獣が出て危険だからだ。今回は必要無いが、でも奥に行かないと手に入らないのもある。
「髑髏トカゲだ……──ヤバっ逃げられる!」
髑髏トカゲは希少な素材で、普通は森の奥にしかいない。僕は思わず追いかけていた。
「あっ……」
そして見失った先に──白いローブを着た三角帽子の魔女が倒れていた。
「どう、しよう……」
頭に被った三角帽子が魔女という事を象徴していた。
ローブや帽子だけではなく髪まで白い少女、恐らくフューリーさんが言ってた目撃情報のあった魔女はこの子だろう。
どうやら気を失ってる様だ。村の人に言って王国騎士団を呼んでもらうか、王国騎士団の人に直接報告するのが良いと思ったが……
…でも、僕は彼女を抱えて家に連れ帰ってしまった。
「あぁ、何やってんだ僕……」
こんなの間違いなくバレたら捕まる…というか、殺される。
「あぁ、やっちまたぁ!」
助けた理由は自分でした事だから分かってる。一つは魔女に付いて興味があった。
国や騎士団、皆んなが言う様に、魔女は本当に悪いヤツなのか?僕の母は悪い人だったのか──それが気になっていた。
そして一番は、騎士団に報告されたら間違いなくこの子は殺される。魔女という理由だけで、それは可哀想だ…それに僕は罪悪感に耐えられない。
その瞬間、家の扉をノックされた。僕は飛び上がりそうな程にビクついた。
(王国騎士団!?まさか、もう……)
僕は跳ね上がる心臓を必死に胸に手を当てて緊張を抑えた。
「レガリィくん、頼んでた薬はできたかなぁ?」
村長だった…ビックリさせないで欲しい。
僕は魔女を寝かせたベッドが見えない様に、扉から顔を出せるくらいに開いた。
「すみません、もうすぐ出来るんで…出来たら、直接──あっ!」
「レガリィくん、どうしかしたのかい?」
「すみません、明日なりそうです……」
僕は魔女を抱えていて、薬草の入った籠を置き忘れていた事に今更気づいた。
「いや、ゆっくりで良いからね。無理しない様になぁ」
「はい、すみません!ありがとうございます!」
しかし、僕の心臓は更にバクバクしていた。早く扉を閉めたくて仕方なかった。
「では、また明日!」
僕は急いで扉を閉めた。村長は少し不思議そうな顔をしていたが、怪しまれてはないと思う。
「起きたのか、何処か怪我はない?」
後ろにある気配に話しかけた。あの子が起きたのだろう。
「私は何故、ここに居るんですか?貴方は…」
「僕の家、君は森に倒れていたんだ…」
そう言って振り返ると白髪の美しい魔女がそこに居た。
「あっ…えっと、君の名前は?俺はレガリィっていうんだけど…」
「レガリィさん、助けてくれてありがとうございます!私はグリムっていいます!」
(以外と元気だな…怪我とか何処か悪い所の心配もなさそうだな)
「グリムか、何であんな所で倒れてたの?」
「倒れてたんですか、私が?」
「えっ、もしかしてだけど記憶がないの?」
「えっと…はい、私は何故ここにいるのかも、自分の名前のこと以外思い出せません…ごめんなさい……」
「別に君が謝る様な事じゃないよ。それより、本当に何も覚えてないの?」
「あっ、大事なものがあります!このカード、何か分からないけど大切な物な気がします!」
彼女が出して見せたカードには、魔法陣の様な物が刻まれていた。それに僕は見覚えがあった。
「『魔法の
「えっ、これが何か知ってるんですか!?」
母が遺した本に、栞の様に挟まれていた。説明もそのページにあった、魔法が込められた魔法具だ。
「僕も持ってるから…これは魔女じゃない人間でも魔法が使えるアイテムなんだ」僕は自分の『魔法の
彼女、グリムが持っていた『魔法の
「それより魔女の君が何で『魔法の
「私、魔法が使えないみたいなんです…でも、このカードは気付いたら持ってて…」
「…魔女なのに、魔法が使えない?」
「信じられないかもですけど、確かです。記憶は無いけど分かるんです」
その瞬間、その後の沈黙をかき消す様に、「ぐぅぅぅぅ……」と魔獣の唸り声の様な音が聞こえた…けど……
「もしかして…お腹空いた?」
「ごめんなさい、お腹空いちゃいました……」
「じゃあ何か作っ──」
「…──良いんですかぁ!」
めっちゃ食い気味に言われ、「おっ、おう……」と、少し引いてしまった。
ちなみに料理の方も母が書いた本で勉強したので、それなりのつもりだが……
(誰かに作るの初めてだなぁ、緊張する…)
今日は何かと緊張しっぱなしだ。大変な事になってるってのに、少し楽しい気がする。
「できたよ、普通のハンバーグとは違うかもだけど……」
「美味しそうです!食べっ──食べて良いんですか!?」
「どっ、どうぞ……」
(食べ物の事になると、この子がっつくな……)
ハンバーグは魔女である母のレシピに載っていた物を作った。今まで学校の調理実習でもハンバーグを作ったが、母のレシピとは全然違ってた。
どうやら僕のは魔女流の作り方らしい。グリムは魔女だから口に合うかと思ったけど、不安だ…やっぱり普通の方が良かったかな?
「美味しいです!ハンバーグ!ヤミーですよ!」
めっちゃ喜んでる…というか大絶賛の大満足みたいで、僕はホッと胸を撫で下ろした。
「口にあったなら良かった、お代わりもあるから」
「…──お代わり!」
(食うの早いな!以外と食べるのか?この子……)
「うん、すぐ持って来るね!」
「はい!ありがとです!」
(めっちゃテンション上がってる…でも、今まで1人だったから何か嬉しいな)
まるで兄妹ができたみたいだと思った…そんな事に気を取られて忘れていた。既にこの村は…──次の瞬間、扉が軋む様な勢いで叩かれた。
「レガリィ!レガリィ!…居るかレガリィ、早く逃げるんだ!」
それは村長さんの息子さんの声だった。声はとても慌てていて、焦っているのも分かる。
「どういう事です、何があったんですか!?」
「騎士団が…俺達の村が魔女を匿ってる言って、火を放ったんだ!」
そう、これから始まるのは紛うことなき魔女狩りだ。その狼煙が上がったんだ。
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