父
ウワノソラ。
親指
――ひとみはね、産まれてはじめてお父さんの親指をぎゅっとにぎって、こっちをみたんやで。その目がきれいだったから名前を『瞳』にしようってきめたんやで。
幼いころ、父がたまに私の名前の由来を、慈しむよう柔らかな声で教えてくれていたのを覚えている。私をみつめる彼の目じりは優しく垂れさがっていて、そのいとしさで満ちた眼差しこそが「きれいな目」だったと今になって思う。
もう彼の目を私が直接眺めることはできない。だって、なんの音沙汰なしに、急遽この世を去ってしまったのだから。
彼は私によく「ひとみが結婚するときまではせめて生きないとな」と、語りかけていた。今思えばこの台詞はとんだ死亡フラグだ。父自身、そのときは自らが早々五十代半ばで死ぬなんて思ってなかっただろう。
でも、人の命は呆気ない。
そして、人の心は強靭なものでもない。
高校に上がってものの数か月で命を落とした父を前にして悲しみにくれたのちに、私が理解したことだった。
父 ウワノソラ。 @uwa_
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