第10話 二人の思い出は違えど……

10話



 図書委員会が終わって解散後――


 僕、如月來夢、雨宮の三人で帰っていた。



 雨宮は如月來夢をからかうように軽口を叩いては如月來夢が一人しょんぼりするのを繰り返している。


 あんまり先輩いじめるなよ……



 

「あ、ところでお二人はどういうきっかけで仲良くなったんですか〜?」



 雨宮からの唐突な質問に僕は思わずギョッとして視線を逸らした。


 一方、如月來夢はと言うと……何やらボーッとしていた。その後少し口角が上がったような気がする。


 僕にはその仕草が少し不可解だった。

 



 ――二年生終業式――



「ずっと好きでした……」


「――――ごめん」




 ――僕と如月來夢が出会ったのはあれが初めてだ。


 もちろんこんな話し雨宮にできる筈もなく、僕は誤魔化すように言葉を濁した。


 


  「二年の終業式だったかな、初めて喋ったのは……それまでクラスが違ったからね」


「えー!じゃあ全然最近じゃないですかー!とても仲が良さそうに見えたので、私はてっきりもっと前から仲良……」


「違うよ」




 如月來夢が雨宮の言葉を遮った。


 僕は唖然とした。違うとは何のことだろうか……?



「違う……?っていうのは何が違うんです?」


「私と神崎くんが出会ったのは終業式なんかじゃないよ。ってこと」


「ほうほう?じゃあ一体いつお二人は……」



 如月來夢の口がギュッと固く結び、拳を握りしめ、心做しか少し顔が火照っているようにも窺えた。



「ら、來夢先輩……?」


「ああ……!ごめんね!やっぱり私の勘違いだったみたい!よく考えてみたら終業式が初めてだったかも……えへへ、私ったらおかしいね」


「ちょっ、大丈夫ですか?この歳で痴呆は流石に困りますって」


「痴呆ではないから!というかよく咄嗟にそんな言葉出てきたね!?」



 すっかりさっきまでの重苦しい雰囲気とは変わって、雨宮がまた軽口を叩き始める。


 如月來夢は何処か諦めたように悲しげに笑っていた。


 僕は一体何かと考えるが、雨宮の声によってその思考は遮られる。




「先輩方、私今日は帰りこっちなんで、ここで失礼しますね」


「ん?雨宮の家はこっちじゃなかったか?」


「いえ、帰りにスーパー寄ってから帰るので、今日はこっちなんです。あ、ひょっとして私と離れるのが寂しかったり……?」



 雨宮は相変わらず軽口を叩いていた。


 彼女の家庭は父子家庭で、家事全般は全て雨宮が担当している。

 弟と妹がいるので、その世話もしているそうだ。



「そっか、雨宮は偉いな」


「んえ……!?」


「ん?どうしたの?」



 雨宮は何やら急にモジモジとしていた。



「その……先輩が褒めてくれることあまりないから、ちょっと驚いたっていうか……」


「僕だって褒める時は褒めるさ」


「……そうですよね、へへ」



 どこか照れくさそうな笑みを浮かべながら、雨宮はくるりと踵を返し、振り向くように得意の逆ピースをしながら挨拶した。



「ではでは先輩方、また明日ですっ!」


「ああ、また明日」


「雨宮ちゃんまたね〜」



 暫くボーッと小さくなっていく雨宮の後ろ姿を二人で見つめていた。


 それは如月來夢も一緒で、お互いに色々思うことがあるのだろう。


 さて帰ろうと僕が歩を進めると、如月來夢もハッと我に返って隣についてくる。


 


「神崎くん、雨宮ちゃん好きなの……?」


「はい?どうして」


「凄く仲が良さそうだから、神崎くんも心開いてる感じだったし、てっきり女の子苦手だと思ってたから」


「まあ半分正解ってところかな、確かに女の子は苦手だけど仲は良くない。彼女の距離感が異常なだけだ」


「ふーん……私も負けないぞ」


 


 如月來夢は隣でガッツポーズをして自分を鼓舞していた。


 僕は自分の感情に真っ直ぐな如月來夢の言葉にどんな顔をしたらいいのか分からず、堪らず地面を見据えた。


 すると何やら思い出したようにカバンの中をガサガサと漁り出した。



「そうだ、神崎くん連絡先教えてよ!」


「連絡先?」


「うん、連絡先」


「交換してどうするの?」


「え?どうするって……お話するからに決まってるじゃん!」


「お話し……」




 僕と如月來夢の間で一体話すことなどあるのだろうか……



「いいから交換するの!」


「は、はい……」



 如月來夢が僕のスマホを取り上げて、カチカチと操作している。



「……これでよしっと、はいありがとう」


「ああ、どういたしまして……」


「じゃあ……帰ろっか」



 その後は特にこれといった会話を交わすことも無く、各々の帰路へと向かった。






 ――その夜――


「ああ……疲れた」



 僕は一人ベットで項垂れていた。


  ベッドに横たわりながら、今日あった出来事を思い返した。


 あの時のあの表情が脳裏に焼き付いて離れてくれない。




「違うよ――」




 一体彼女は何のことを言っていたのだろうか?


 それよりも気にかかる事が一つだけ……




 


 ――彼女は悲しげに笑っていたのだ。


 


 

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大嫌いな君に恋なんてするわけがない-unknown- SAI @sai-kaku622

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