第66話 新たな関係性での日常生活

 まんまと二人の術中に嵌められ、奥沢さんと本当の恋人同士になってから、一時間にも満たずして、俺と奥沢さんは二人で学校へと登校していた。

 紫音からの要望で、二人の初々しい反応を見たいということになったのだ。

 

 奥沢さんも告白を手伝ってもらった身として断れなかったらしく、俺たちは今、指と指を合わせるいわゆる恋人繋ぎをしながら通学路を歩いていた。


 当の紫音本人は、十メートルほど離れた位置から俺たちの様子をにやにやとした笑みを浮かべながら眺めている。


 一方の俺たちはというと、恥ずかしすぎて、目を合わすことさえ出来ずにいた。


 今まで、仮の恋人関係という明確な心の安定というか、線引きみたいなものがあったけど、本当の恋人になったので、歯止めが利かない所まで行ってしまっても許される関係になってしまったからか、何とも言えぬ空気感が二人の間に流れていた。


 周りの生徒たちは、俺と奥沢さんが付き合っていることは周知の事実となっているため、あまりジロジロと見つめて来るものはいなかったものの、いざこうして本当の恋人として歩くと、また違う緊張感というものがあって居心地が凄く悪い。


 とまあ、そんな感じで二人歩調を合わせてい歩いていると、四つ角にたどり着いたところで見知った顔が現れる。


「雪谷……おはよ」

「悠羽!」


 まさに救世主とはこのこと。

 クラスメイトの沼部悠羽が、いつもの調子で挨拶を交わしてきてくれたのだ。

 だがしかし、隣にいる奥沢さんを見つめ、俺と彼女の間で繋がれている手を見ると、彼女は呆れたようにため息を吐いた。


「はぁ……相変わらず雪谷はどうしようもない女ったらしだね」

「言ってろ」

「ふぅんーそんな反抗的な態度取っていいと思ってるわけ?」

「ヒィ!?」


 ギロリと鋭い目つきで睨みつけてくる悠羽。

 それを見て、俺は思わずゾッと身震いしてしまう。

 その時、俺を庇うようにして、奥沢さんが一歩前へと出て、悠羽と視線を交わらせる。


「……何? 奥沢優里香?」


 悠羽が無機質な声で尋ねると、奥沢さんはギュっと握る手の力を強めて言い放った。


「わっ……私の彼氏に手を出さないでもらえるかしら」

「ほう……あなたも言うようになったのね。でも残念、私は知ってるの。あんたと雪谷が仮の恋人関係だって事」

「……もう違うもん」

「何か言った?」

「もう仮の関係じゃないもん!」


 駄々をこねる子供みたいな口調で、奥沢さんが言い放つと、悠羽が珍しくポカンとした表情を浮かべた。

 そして、はっと我に返ると、俺の方へ細い目を向けて来る。


「雪谷、これはどういうこと? 説明してもらえるかしら?」

「も、黙秘します」

「雪谷に黙秘権はない」

「ちょ、個人的人権は⁉」

「あら、奴隷がそんな態度を取っていいと思ってるのかしら?」


 あっ、ヤバい。

 完全に悠羽が怒っている。

 これは調教ルート確実……!


「雪谷君、奴隷とか言ってるけど、どういうこと?」

「えっと、それには色々と深い事情がありまして……」


 俺が言い訳じみた言葉を漏らすと、奥沢さんはにこっと笑みを浮かべたまま無言で見つめてくる。

 ヤバイ、目が全然笑ってないんですけど……。

 とその時、後方の方からものすごい勢いでこちらへと近づいてくる足音が聞こえてきたかと思うと――


「あっ! やっと見つけた!」


 俺たちの前でその足音が立ち止まると、他校の制服に袖を通した、金髪の美少女が、ぜぇ、ぜぇと息を切らしながら現れた。


「ちょっとアンタ! 奥沢優里香と本当に付き合い始めたって、どういうこと⁉」

「なんでこんなところに黒亜がいるんだよ!」

「うっさい! いいから事情を説明しろっての!」

「こら、引っ張るなっての! というか、こんなところにいたら学校遅刻するぞ!」

「学校よりあんたの方が大事に決まってるでしょ! いいから事情を説明しろ!」


 まさにカオスとはこのこと。

 悪目立ちしているせいで、周りの生徒たちからは、なんだなんだと奇異な視線を向けられている。


「あぁもうわかったから! 説明するから、落ち着いてくれぇぇぇー!!」

「お兄ちゃん、モテ期到来だね♪」

「紫音も遠目から眺めてないで止めてくれ!」


 とまあそんな感じで、俺の夏川ゆら探しは終わりを告げ、ASMR生活は次のフェイズへと突入したわけだけど、しばらくの間は、納得のいっていない悠羽や黒亜からも様々な方法で俺を堕とそうとしてくるのであろう。


 公開処刑という最悪のASMRバレから始まった俺の生活は、気付けば様々な問題を解決して、ここまでたどり着いた。

 これからも、違う意味で様々な試練があるだろうけど、心なしかそんなハチャメチャな生活をどこか楽しみにしている自分がいた。

 一つ言えることは、俺のASMR好きは、これからも永遠に不滅ということである。


 END

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清楚ビッチのクラスメイトを助けたら、お礼にもっといいことシてあ・げ・る♪と言われ、保健室に連れていかれた俺。どうなるかと思ったら、めちゃくちゃ尽されたんだけど……彼女は神ですか? さばりん @c_sabarin

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