第5話
近藤さんに会議室まで来てもらった。
「佐藤くんの方から相談とは珍しいな」
「はい、実は…」
俺は事情を全て話した。
近藤さんはトカレフを取り出し「ストーカーなんざ鉛玉3〜4発ブチ込めば黙るでしょ」と言った。確かにそれは名案かもしれない。
「ありがとうございます。ではお願いし…」
「冗談だよ」
近藤さんはそう言ってケラケラ笑った。
俺は肩透かしを食らいつつもホッとした。
まあ、この人はいつもこんな感じだしな……。
「まあ、鈴木くんには色々融通してもらってるし、ここで恩を売っとくのも手かな」
「本当ですか!?︎」
「ああ。とりあえずストーカーに警告文を送りつけよう。これくらいはサービスだ」
「ありがとうございます!」
「なに礼を言うのは早いぜ。まずはそのストーカーを見つけ出さなくちゃいけないんだからな」
「ですよねぇ〜」
こうして、俺と近藤さんの作戦が始まった。
それから2日後、俺は鈴木と巡回をしていた。
鈴木が狙われている以上、1人歩きさせるわけにもいかないからな。
しかし何の手掛かりもない状態だとどうしようも無い。
今日も収穫無しで終わるのか……と思ったその時だった。
「あの、すいません。少しよろしいでしょうか?」
後ろを振り返るとそこにはスーツ姿の女がいた。
年齢は20代前半といったところだろうか?
俺は警戒しつつ答えた。
「はい?何か御用で?」
「いえ、ちょっとお伺いしたかっただけなのですが……貴方、ホテルFuckin'Tokyoの従業員ですね?」
「そうですが……」
「実は私、そこの支配人とお付き合いさせていただいておりまして……」
「はい?」
初耳だ。
「それで今度そちらのレストランに招待していただこうと思いまして」
…なんだこの人?
第一オーナーには妻子が…かつていた。事故で亡くなったんだっけ。
その事を知らないのだろうか? それとも知っててやってんのか……どっちにしろタダじゃ済まさないけどな。
「そうだったんですか!是非来て下さい。いつでも歓迎致しますよ」
「良かった。支配人に伝えておきますね。ところで……」
女はニヤリと笑いながら続けた。
「そろそろ気づきませんか?私の視線に」
「えっ……?」
「ずっと見てますよ。あなたの事♡」
ゾクッ! 俺は背筋に悪寒を感じた。
コイツまさか…ストーカー!?
「まさか警告文送る前に勝手にやって来るとはな!」
近藤さんが死角から飛び出し、女を取り押さえた。
女はジタバタ暴れたがやがて大人しくなった。
近藤さんはトカレフを突きつけたまま言った。
「おい、お前の狙いは何だ?」
女はしばらく沈黙していたが、観念したのか口を開いた。
「別に大したことじゃないわ。私はただ彼と愛し合いたいだけだもの。邪魔するなら容赦しないわよ」
近藤さんは無言で引き金を引いた。
パンッという音と共に女の頭が朱に染まり弾け…無かった。
「命拾いしたな…ペイント弾だよ」
女はガクガク震えていた。
「まあ、次弾がペイント弾の保証は無いけどな…どうするよお姉ちゃん?」
「ごめんなさい、もう二度としません。許してください……」
「オーケー」
近藤さんは女を立たせるとロビーまで移動し女を座らせ、内ポケットから何か書類とボールペンと朱肉を取り出した。
「お姉ちゃん、鈴木くんに二度と接近しない様誓約書書いてもらうよ」
「分かりました」
女はペンを走らせ朱肉を親指に付け捺印する。そして書き終わると近藤さんに手渡した。
「はい、確かに」
近藤さんはサインと捺印を確認してから再びトカレフを構え言った。
「いいかい、これは脅しなんかじゃない。次に会ったら容赦なく撃つからな」
「はい……」
こうして鈴木を悩ませてたストーカー騒ぎは解決した。
しかし俺は新たな問題に直面していた。
ホテルFuckin' Tokyo 芥子川(けしかわ) @djsouchou
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