13 雪解けを待つ

「いつまで私を待たせるつもり?」

 馬車を前に彼女は佇む。艶やかな黒髪に冷めた瞳。陶器のような肌は触れれば氷漬けにされそうだ。しかし皺を刻む表情すら美しい。

「失礼。いつでも貴方は美しくて、つい見惚れてしまうのです」

 手を差し出せば、無言で乗り込む彼女に続く。婚約者である俺への応えはない。だが隣へ座り、顔を覗き込めば、満足だ。

「……許可なく女性の顔を覗き込むものではないのわ」

「それは失礼」

 憤る彼女は顔を背けてしまった。

 けれど俺の口角は上がる。髪の隙間から覗く彼女の首は燃え上がっている。

 俺など意識していないわ、とツンとすました態度。まるで猫のように。

 だからこそ確信する。麗しき氷の女神の雪融けは近い。

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300字SS ケー/恵陽 @ke_yo_

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