12 不在
チクタクとした音が家主の去った家に響く。知らぬうちに病を患い、誰にも看取られず、逝った。祖母との記憶は幼少の数年間しかない。両親が離婚したためだ。僅かばかりの思い出は柱の傷と古い黒電話、それに時計の音。
ボーン、と十七時を告げる。
『さあ、そろそろ夕飯の用意をしようね』
やさしくほほえむ祖母の顔が思い出される。差し出される手。冷蔵庫を開く自分。鍋を出す祖母。
柱の傷は勢いよくこけて、大泣きした時の物だ。当時十歳であった。
『いつまで経っても、あんたは泣き虫さんやね』
不意に溢れる涙に、まるで傍にいるかのような祖母の言葉が聴こえる。もし其処にいるなら聞いて欲しい。
いつまでも大好きよ、おばあちゃん。
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