小籠包の気分

@yzk_syurk

第1話 小籠包の気分

しゅう、お母さん仕事行ってくるから」


1階から聞こえる母の声に返事をすることもなく、ネットの世界に溺れる

それが俺の選んだ依存先だから


人間は何かに依存しなければ生きていけない

それが恋人であれ、推しであれ、酒やタバコであっても、だ

特に心が折れるような出来事があったのなら尚更だ

何かに依存しなければ生きる気力を失うから


真夏並の暑さなのにも関わらず、蝉の声はしない

地球温暖化の影響かと考えると、ふらりとした感覚に襲われる

そう、この時期に厄介な熱中症だ


しかし、俺の部屋に小さな冷蔵庫がある訳もない

画面から目を離す時間が勿体無いと思うが、自身の命には変えられない

仕方なくリビングへの階段を下るのだ


「…美味」


暑い中キンキンの水を飲む事がどれだけ幸せか、運動部に所属している者ならばきっと俺の感動が伝わっているはずだ


生憎リビングへは基本行かないのでクーラーの電源は付けていない

かと言って自室にクーラーはなく、携帯扇風機ただ1つ

こんな物で真夏はどう乗り切るのか不安になる


そもそも真夏前にこの気温は可笑しい

30°前後等母達の時代では考えも出来なかった気温なのだ

日本での夏は海外のようにカラッとした暑さではないので、家に居るだけでも蒸し風呂かと疑いたくなる


蒸されると言えば小籠包だ

あれはこの夏よりも暑い蒸し風呂で耐え忍び、その少し分厚い皮の牢獄で肉汁達は開放される日を今か今かと待っている

小籠包もこんな気持ちなのだろうか?

居たくもない場所に閉じ込められ、強制的に肉汁をかかせられる

水分補給さえもさせて貰えないのだから、もっと酷い環境だな


そんな馬鹿な事を考え、再び自室へ戻る


―皮の牢獄に捉えられているのは俺なのかもしれない―


いや、俺は自分の意思でこの家から出ないことを決意したのだ

小籠包の如く強制的に詰められた訳では無い


そうだ、俺は監禁等されていないのだ

ただ、人に会いたくないだけ


そこまで考えると胸糞が悪くなり、感情のままに壁を殴る

あぁまただ

こんなんだから俺は…

自分が1番分かっている事に目を背ける

それがいけない事だと知りながら、現実を認める事が出来なかった


もう…疲れた










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