第3話

「ごめん、山岡君、シャープペン貸してくれる?」


「もちろん! ささ、早く解いてみてよ!」


 なんだか嬉しそうな山岡君にシャープペンを借りて書き写していく。私が書いていると、クラスのみんなが席を離れ、私の周りに集まってくるのがわかった。日直としては注意をしなくてはいけないと思いつつも、もう解き始めた私の脳内は止まらない。


「えっと、全部平仮名に、まず直してっと」


 そうぶつぶつ言いながら、数字以外の文字を全部ひらがなに直した。そして、その平仮名の単語の最後に書いてある数字の場所をさらにノートに書き出していく。


「まずは、りすぼーん1だから、[り]っと。で次が、ねかま2だから、[か]だよね、でもって、しゅんさつ1だから、[し]……と、でえっと、次は……」


 私の座っている理科室のテーブルの周りで私のノートを覗き込んでいるクラスメイトから、「マジすげぇ」「全然わかんなかった」「てか、意味がわからん」「お前馬鹿なの?」などと声が聞こえてくるけれど、私はさくっと一分足らずでその謎の暗号文を解読した。


「できた」


「「「「「「おおお!」」」」」」」


「で? なんて書いてあった?」


 いつの間にかすぐそばまで来ていた知幸君が私に聞く。

 私は自信満々に答えた。


「りかしつのつくえのした!」


「「「「「「おおお!」」」」」」」


「じゃあ、見てみなよ。机の下!」


 知幸君が嬉しそうにいうので、私は自分が座っている理科室の机の下に手を入れて、その中を探ってみた。


「ん?」


 手に何かが触った。でも、感触が筆箱じゃない。


――なんだこれ? 分厚い紙みたいな……?


 何かで机にくっつけられているノートくらいの大きさの紙をびりっと音を立てて抜き取ると、それは茶封筒だった。


「え? 何これ?」


「開けてみたら? 次のヒントかもよ?」


「まさか、まだあるの?」


 そう言いながら、私はみんなが見ている前で茶封筒の中身を取り出した。


「うそ……。なんで……?」


「へへへ。クラスのみんなで書いたんだ。驚いた?」


「うん……」


 茶封筒の中に入っていたのは、クラス全員、なんなら担任の吉永先生も入って書かれた私に宛てた寄せ書きだった。


 手術頑張ってね。

 絶対戻ってきてね。

 早く元気になってね。

 一緒にまた勉強しようね。


 などなどが書かれている。山岡君が優しい目をして私に言う。


「武仲さん、明日から病院に入院して大きな手術、するんだろ? 俺たちみんなでそれ書いたから、絶対大丈夫だよ! 頑張って病気治して、元気になってくれよ」


 なんだか、ものすごく感動的な空気が流れている気がする。本当はそうじゃないのに、私の胸まで熱くなってきている。涙まで出てきそうな、そんな感じに胸も熱い。とその時、吉永先生の声が聞こえた。


「おうい、もう、終わったか?」


 みんなで一斉に振り向くと、吉永先生が理科室の入り口からこっちを見て立っていた。


「先生も、知ってたんですか?」


「おお。明日から武仲が入院するらしいから、手伝ってくれって言われてさ。まぁ、すぐに夏休みだし、二学期からは学校に来れるんだろ?」


「はい。もちろんです。だって、あの、私……病気じゃなくて、膝のお皿、ちょっと触るだけの手術で……。10日間入院したら退院します」


「「「「「「え!?」」」」」」


「いや、だから、バスケで痛めた膝の手術を夏休みにするってだけで。で、明日から入院。だって、ほら、明日終業式だし。金曜日だし?」


「おい、山岡、これは一体?!」


「あ、あれぇ、おかしいなぁ。うちのお母さんから聞いた話だと、なんかものすごい手術だからかわいそうって、聞いたんだけど……」


 なるほど。犯人はうちのお母さんだと理解した。山岡君のお母さんとは確かすごく仲が良かったはずだ。きっと大袈裟に話を盛って話したに違いない。うちのお母さんは、そういう大袈裟なお母さんなのだ。


 理科室に流れる微妙な空気と変な時間……。


 だがしかし、お調子者の知幸君は手に私の筆箱を持って椅子の上に立ち、嬉しそうに言った。




「これで全ての謎は解決した! なんてね!」










 

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消えた筆箱と挑戦状 和響 @kazuchiai

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