第16話 十層ボス


 アクシデントもなく順調に進み、十層ボス部屋の手前にいる。

 目の前にはダンジョンによくあるタイプの、この洞窟には不釣り合いな大きさの頑丈そうな扉がある。


「シズクの父さんもここにはまだ来てないんだよな」


 未探索のダンジョンにまだ誰も見たことのない強敵。

 探索者として成功して金を稼ぐのも夢があるが、やっぱりこういう状況は心躍るものがある。


「道中からして、そこまで苦戦するような相手がでてくるとは思えないけど」


 ダンジョンに出てくるボスは基本的に道中のモンスターと同じ系統だ。

 ここのダンジョンは、トカゲやヘビがそのまま大きくなったモンスターが基本だ。

 先にいるボスはそれの強化版だと予想できる。


 軽く休憩をとって息を整え、いざボス戦。


 ゆっくりと扉を開ける。


 円形の広場のような洞窟だ。

 中央に軽トラサイズのオオトカゲが陣取っていて、その先の奥の壁には次の層へと続くであろう閉ざされた扉が見える。


 それと広場を水の堀が囲んでいる。扉に続く道以外の壁際には幅数メートルの水たまりがある。


 そうやって、観察していると。


 どうやら、ボスの大トカゲもこちらに気が付いたようだ。


 のっそりと大きな体で動き出し、まずは一発とこちらに向かい突進してきた。


「っと、シズク! とりあえず、ばらけるぞ」

「片方が引き付けて、空いたほうが攻撃役でしょ」


 大きな体躯からなる単純な突進だがその威力はシャレにならない。

 異形化している今の俺なら一発は耐えられるだろうが、前なら即お陀仏だ。


 とはいっても、ただ進むだけの単純な突進だ。


 攻撃せずに避けることに集中していれば、余裕をもって躱すことができる。


 その間に、手の空いているもう一人が攻撃をすればいい。


 どうやら最初のターゲットは俺。


 二方向に分かれた俺とシズク。オオトカゲは緩いカーブを描きながらも俺のほうに突き進んでくる。


 大トカゲが方向転換できないよう、ぎりぎりまで引き付ける。


「ここだ!」


 闘牛士がごとく、ギリギリで突進を躱す。

 その直後、シズクはオオトカゲにむけて式神を投擲。


 鳥型の式神はオオトカゲを追尾し、脇腹に突き刺さった。


 オオトカゲはくぐもった悲鳴を上げると、今度はシズクに突進をする。


 今度は俺の番だ。


 手のひらに植物の種をのせて樹術を使う。

 種は発芽すると、ぐんぐんと蔦を伸ばす。伸びた蔦は絡まりあい、巨大化したバットに似たこん棒に一瞬にしてなった。


 俺の背丈ほどある棍棒。


 傷つけられ、シズクに意識が釘付けのオオトカゲに助走をつけて振り下ろす。

 衝撃で、突進中のオオトカゲの進路がずれる。


 明後日な方向へ、ダメージの影響か、飲酒運転がごとくふらふらと速度を落としながらも進んで、最後には壁際の水の堀へと落ちていった。


 倒したのか、と思ったがボス討伐の報酬である宝箱が出現しない。


「まだ生きてるぞ。不意打ちに注意!」


 背中合わせに、俺とシズクは周囲を警戒する。


 数十秒。


 大トカゲの落ちた真反対から水音が響く。


 さばん、という水音とともに大トカゲが水面から飛び出すと、その勢いのまま、部屋の中心にて警戒をしていた俺たちに突進してきた。


 部屋に入った時と同じように俺たちは二手に分かれる。

 今度は大ダメージを与えた俺をフリーにしないようにか、こっちに突進してきた。


「同じ攻撃が二度も通用するかよ」


 俺は向かってくる大トカゲの真正面に立ち、大きなこん棒を構える。


「ここだ、オラァ!」


 突進してきた大トカゲの脳天に、こん棒が振り下ろされる。

 重力を味方にして振り下ろされたこん棒の威力はどうやら大トカゲの突進のそれを超えてたようだ。


 大トカゲは数歩後ずさると、地面に倒れ伏した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

日常≒冒険 〜鬼人、龍人、現代ダンジョン探索譚〜 夏冬 @sarako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ