「厠の神兵」

低迷アクション

第1話

「人様が用足す場所は、ホッと一息つける場所…それは守らんといかんでしょう?」


捕虜収容所の“片手の日本兵”は、連合軍将校達を前に、こう語る…




1年前の太平洋戦役…南洋激戦地の島に、一つの小屋が立った。小屋の看板には


「特別保安衛生部隊駐屯地兼厠」


と記されている。大戦中、どの国でも劣悪なトイレ事情に、日本軍部が動いた。


最前線に設置された簡易な厠に配置されたのは、片手を失った落下傘兵、サヴァン症候群の砲手、ヒロポン中毒の元手品師を含めた部隊…


動いたと言うより、人材の墓場を建前だけに建てた厠の防衛に押し込めた吹き溜まりの地…


だが、彼等は忠実に拠点である厠を守った。


上陸する連合軍兵士の機関銃を奪った落下傘兵の戦いは敵から


“片手のイエロー”のあだ名で恐れられた。


小屋に砲撃あれば、砲兵が弾頭調整を加え、空中で散弾のように弾ける野戦砲

(戦場に遺棄されたモノを改修した)で蹴散らし、


戦闘機による爆撃には、手品師が用意した大型ガラスの反射で、操縦士の目を攪乱した。


戦火が激しくなり、日本軍が劣勢になっても、厠は残り続ける。


厠を使ったのは味方だけでない。戦闘により避難を余儀なくされた島民、捕虜になった敵兵にも使わせた。


「用足す時くらいは、色関係なしで、仲良くやろうや」


捕虜に対し、彼等は拙い英語でそう言った。


やがて、戦争が終わり、部隊は連合軍に投降する。


小屋を調べた兵士は、自分達がどれほど攻撃しても落ちなかった小屋が


“restroom”


との事実に驚き、捕虜となった日本兵に面会する(冒頭の件)


彼等の、その後はわからない。


だが、世界中で続く戦いの中、どの地域でも、必ず確認される事実がある。


それは小屋だったり、建物の時もあるが、用途は同じだ。


“ある戦場”では、敵にも、味方にも重宝されている。


そこを管理し、守る者は、拙い東欧の言葉でこう言う。


「人様が用足す所は、ホッと一息つける場所…それは守らんといかん」…(終)

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