第4話:今更ながら自己紹介とオリジナル魔法

「急になに……?」

「いや、なんか無性に撫でたくなったというか、このあふれ出る小動物感にあらがえなかったというか」


 自分ですらなんでこいつのことを撫でたのか分かってないのに、答えられるわけないんだよなぁ。

 感覚としてはケルベロス撫でたときと同じだと思うんだけど、もしかしてこれが保護欲と言うやつか!?


「あんまり気安く触らないでくれる? まだアルトのことをちゃんと信用したわけじゃないんだから」


 信用してるとかしてないとか俺の前で無意味な気はするけどな。

 信用されてても殺すときは問答無用で殺すし。

 まぁそんなこと言ったらせっかく神剣とってきて手なずけたのが無駄になっちまうしから言わないけど。


 ていうか、信頼がどうこうって話をするなら俺らお互いのことを知らなすぎるんじゃないかと思うんだが。

 名前を知ったのすらついさっきってどうなの?

 俺ここに引っ越してきて数週間経つよね?


「わかった。少し互いについて知る機会を設けようぜ? 俺がなんで勇者なんざやってたのかとか、魔王とは何なのかとか」

「そうやって少しずつ情報を抜き取っていくつもりだな! 私は騙されないぞ!」

「お前の情報なんて抜いて何に使うんだよ。元魔王の情報売ります、みたいな感じで情報屋でもするのか? こんな辺境も辺境のむしろ魔境と言っても過言じゃない山の中で」


 そもそも俺も煩わしい人付き合いが嫌で山に引きこもってんだから自ら居場所を知らせるようなことするわけないだろ。

 本当によくこんな残念なお子様がトップで魔王軍は戦えてたな。

 俺のとこのトップがこんなちゃらんぽらんだったら真っ先に切り捨ててるけどな。


「じゃあ俺から自己紹介だ。名前はさっき言ったからもういいよな? つっても他に何を話すべきか……なんか聞きたいこととかあれば答える感じにするか」

「……強さの秘訣は?」

「あー……」


 正直気付いたら魔力がとんでもない量になってただけで、特別何か訓練をしたとかそういうのは一切ないんだよな。

 俺の力の根本なんざ有り余る魔力に物を言わせて力技で何とかしてる部分が大半だから答えられるとしたら「魔力を鍛えましょう」になるんだが。


「そうだな……メインは魔力が多いからその魔力でいろいろしてるってところだけど、剣術だとかっていう戦闘術は完全に戦場で身に着けたものだから我流だし、秘訣っていう秘訣も無いってのが答えか」

「これまでそれなりに長い間生きてきたけどアルトみたいにオリジナルの魔法を作った奴なんて見たことない」

「オリジナルなぁ。ラファエルはさ、魔法ってどういう物だと思ってる?」

「自分の魔力を媒体にして自然現象を引き起こすもの」

「まぁそれも正解っちゃあ正解だけど、俺が聞きたいのは魔法を行使する時のことだな」


 俺がそう聞くと、そんなことも分からないのかこいつは、と言うような目でラファエルは俺を見てくる。


「それぞれの魔法に対応した呪文を唱える」

「そうだな。だけど疑問に思ったことはないか? 呪文って言っても全員が全員同じ内容じゃないんだぜ?」


 簡単な物だと、よく使う機会の多い『ファイアーボール』の魔法だ。

 火に限らず、球状にして飛ばすってのは魔法としては初歩の初歩で、そこから発展して形状が変わったり威力が強くなったものがそれぞれの上位魔法という扱いになっている。

 そして、『ファイアーボール』の呪文は「火」や「玉」、「飛ぶ」と言った単語が使われてさえいれば発動する。

 極端な話、「火、玉、飛べ」だけでも呪文として成立するわけだ。


「要するに呪文なんて言ってはいるが、大切なのはそれぞれの単語であって助詞なんかにそこまで価値は無いってことだ」

「でもそれが分かったところでどうやってオリジナルの魔法を作るの?」

「必要のない言葉が入っていても呪文として成立する、それがわかったんなら話は早いだろ。それぞれの呪文を切り取って適当に繋げ合わせるんだよ」


 さっきの『ファイアーボール』の例だと、必要な単語は「火」、「玉」、「飛ぶ」の三つ。

 だが、これに「五」という単語を組み合わせると、五つの火の玉が敵に向かって飛んでいくオリジナルの魔法になる。

 しかし、何でもつなげればいいという物でもなく、意味のない単語をつなげた呪文では魔法が発動しなかったり、爆発したり、発動できてもとてつもない魔力を消費したり、ある意味オリジナル魔法を作るのはかみ合うパズルのピースを探すことに等しい。


「確かに理論上は可能かもしれないけど、魔法の数だけある呪文の中からうまくかみ合うものを見つけ出すのがどれほど大変な事か……ちなみによく使ってる『聖域指定』ってどれくらいの単語を組み合わせたものなの?」

「あれは確か四十かな。ベースが単語八つの『光の牢獄』だから結構頑張った方だと思うぞ」

「その魔法を作るのにどれほどの時間がかかったの……」


 若干引かれてる気もしなくもないけど、オリジナルの利点はかゆいところに手が届く万能性だと思ってるからな。

 多少時間がかかっても使い勝手のいい魔法を作った方が後々の効率が良いと思ったんだよ。

 まぁ効率とか抜きにして完全にロマンを追い求めた『俺の考えた最強のファイアーボール』とかもあるけど……。


「お互い幸いに時間はいくらでもあるんだ。ラファエルも気長に調べてったら意外とできるもんだぞ」

「正直原理を聞いたら、作る気が失せるくらいには途方もない労力がかかるんだけど」

「直感で試してみたら意外と大丈夫だった、みたいなパターンもあるから安心しろよ」


 失敗しても手がはじけ飛ぶくらいだし。

 頭さえ無事なら心臓刺されても瞬時に回復魔法で回復できたりするし、人間意外と死なないもんだぞ?


「それなら時間がある時にでも試してみる」


 ラファエルは満足そうな顔でそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界を救って隠居した勇者である俺の隣人は倒したはずの魔王だった!? 神獣タートルネック @kisaragi0528

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ