第5話 小さな光

 進んでいる途中で川を見つけたアレクはそこで昼食を摂ることにした。


「もふっと」

「なんだ、まだついてきてたのか」


 木陰に腰掛けながら、そのもふもふを撫でる。もふもふの毛には清浄効果でもあるのか肌触りがよく、弾力感が癖になり気持ちがいい。

 気持ちよさそうに手のひらに擦り寄ってくるもふもふに笑みが零れた。

 アレクはそのもふもふを十分に満喫したあと、アイテムボックスから昨日買った硬いパンと皮袋の入った水を取り出す。

 川の近くは風が冷たい。

 パンを咥え、歯に力を込めて思いっきり引っ張る。


 ーー硬い


 アレクは、旅用の柔らかいパンを誰か開発してくれないかなと、思いながらそれを咀嚼する。


 ーー噛めば噛むほど硬くなっている気がする


 ゴクリ

 少し残したパンをもふもふの、口あたりに持っていけば、手らしい小さな毛の塊が二つ出てきて器用に持ちながら毛の中へと吸い込まれていく。

 もふもふは、とことこと川へと向かい水を飲み始めた。多分水を飲んでいるで間違いないと思う。前半分浸かってる。


 ーー息できてるのかな…


 アレクも皮袋に今朝いれてきた水を口に含みながら、ぼーとそれを眺めていた。

 木の幹に背を預け、ゆっくり瞼を閉じれば、周囲の音がより鮮明に聞こえる。


 ーー見つけた


 アレクは、立ち上がりその気配を見失わないように足に力を込めようとすれば、もふもふが飛び跳ねながら何かを訴えかけてくる。


「もふっともふっと!」


 どこまでも着いてきそうなもふもふに、仕方がない、そう思いアイテムボックスから昨日買った肩掛け鞄を取り出し中に入れた。


 ーー早速役に立つとは。買っておいてよかった


 アレクはボタンを閉め鞄を斜めに掛けると、一気に走り出し川を超える。鞄の中で、もふもふが驚いた鳴き声をあげた。それに悪いと思いながら見失わないよう木の幹を器用に避けながら進む。

 数分その気配を追いかければ、やっとそれに辿りついた。

 小さい光、それを視界にとらえた瞬間光が消えてどこにも見当たらなくなった。


「間に合わないかと思った」


 アレクは、安堵の息を吐き出し小さな光がいた場所に立つ。そして手を伸ばせば、水の膜みたいな物にぶつかる。


 ーー久しぶりだから緊張してきたな


 そう思いながら身体を前へと進めた。膜を通り抜ければ先程消えた光がまた見えるようになる。

 その小さい光もこちらに気づいたようで、僕の顔の辺りを忙しなく動き回る。満足するまでそれを眺めていると次は身体の周りをくるくる回り始めた。


「ねぇ、あなたのお名前は?」


 そう光が言えば、姿がだんだん明確に映し出されていく。金色の髪に金色の瞳、白い服を着て頭には草の冠を被ている。


「アレク」


 小さい光の正体、それはオリエント王国では珍しいと言われる精霊だった。

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アレクの旅 水無月 央 @nozomi610

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