第4話 出発
太陽が登り始めた薄暗い朝。
まだ、人が少なく肌寒い朝方にアレクは出発の準備を整え宿を出た。
ーーどうせ旅するなら面白い方がいい
そう思いながら、わざと人の少ない時間帯を狙って森の方へと向かった。
森の前には、柵がある訳でも人が立っている訳でもなくすんなりと入ることが出来た。あくまでも自己責任ということだろう。
風に揺られ、木々がざわめき葉が重なり落ちる。
数年前まで通っていた道だろう、草が生え狭まっているようだが道が残っている。これなら迷う心配はなさそう。迷ったとしても昨日購入した地図と方角を指し示す魔導具があるため心配無さそうだ。
アレクは久しぶりに訪れた森の中を気分良さげに進んでいく。
アレクが冒険者になる前は、オリエント王国南部の森の中で生活していた。住んでいた小さな小屋は古いものの雨漏りやすきま風などの心配もなく、食べ物も木の実や、獲物を狩ることによって困ることは何一つなかった。小屋で流れる穏やかな時間はそれだけで十分なものだったし、それ以上を求めることは何も無かった。森の中で補えない物は村に降りれば手に入ったし、狩った獲物や薬草を村に売りに行けばいい稼ぎにもなった。
まさか、あの小屋を出て冒険者になるとはアレクも思っていなかった。
ザワリ
一段と大きく木が揺れた。
ギルドで言われた、不思議なことは起きる気配もなくアレクの足を止めるものも何もなかった。それにアレクは少しの落胆を滲ませる。
起きて欲しい訳では無いが、少しの違和感を抱くくらいの出来事は起きて欲しいと不謹慎にも思った。
と、その瞬間。すごい勢いで何かがこちらに向かっているのを感じた。森の中で狩りをして暮らしていたアレクは気配に一段と敏感であった。
ーーなにか来る。
その場で立ち止まり、気配がする方に集中する。
ーー小さい、何か。来た
アレクは腰に下げていた短剣を握り、その気配を斬ろうとした瞬間。
「もふっと」
そう発しながら剣を器用に避けた物体はアレクの顔面に着地した。顔面をもふもふした、なにかに覆われたアレクは体勢を戻しそれを鷲掴みにして離す。
片手掴んだそれを目の前に掲げて、まじまじ取見つめる。
ーーなんだこれ。魔物か?
捕まったそれは、手の中でじたばた暴れ「もふっともふっと」という言葉を繰り返している。
アレクは片手で器用にマジックボックスの中から昨日購入した本を取りだし、魔法でその本を浮かす。目の前に浮いたその本をまたも魔法で器用にページをめくる。
ーーいた。
【名前】もふもふ
【種族】魔物
【階級】最低級
【属性】草
【見た目】白いふさふさの毛に覆われ長い耳が特徴。丸く、大きいもので高さ40cm、幅80cmのが確認されている。小さいが手と足も存在しており、四足歩行の魔物である。
【鳴き声】もふっと
【補足】食べれないこともないが、あまり美味しくない。近年では愛玩用として地味に人気を博している。
書かれた内容を一読した後、本を戻し、未だに暴れているもふもふを両手で包み込むように抱いてみる。すると段々落ち着いてきたのか暴れなくなった。優しく撫でながら毛をめくれば可愛らしい瞳と目が合う。
怪我をしているのか白い毛に血が着いていることに気づく。毛をかき分け見てみれば少し深めの切傷を見つける。
アレクはその場にしゃがみこみ、簡単な治癒魔法をかける。
ポーションや回復薬は、人用のものしか持っていないため魔物には使えない。
痛みが消えなたのか、震えが止まりぴょんぴょん飛び跳ね始めた。その様子を目にしたアレクはそれを横目に再び歩き出す。
アレクが治療したのは気まぐれだった。普段は自然の理であるため治療などはしない。だが、今回はたまたま旅に出て初めての魔物でしかも危険のない魔物だった。そのため、治癒しようと気まぐれが起きたのだ。
後ろから忙しなく「もふっと」という鳴き声が聞こえる。歩いても歩いても聞こえる声にアレクは足を止め、足元を見る。すると、もふもふは足の周りを回りながら飛び跳ねている。歩き出せば着いてくる、もふもふにアレクは吹き出しそうになりながら前へと進んだ。
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