第14球 季節は巡って

第13球 深い雪も喚くと崩れる

https://kakuyomu.jp/works/16817139555266066744/episodes/16817139557610907318


「ねえ、マーマレードとって」

 当然のように差し出された手に、私は懲りずに注文のビンを差し出した。

「だからさあ。うちでマーマレードで食べるのハル姉だけなんだから、ずっとじぶんとこ置いとけば良いじゃん」

 何度目になるかもわからないやり取りだけれど、どうせ返事はもごもごと聞き取れない。


 先にトーストをかじり終え出支度をさっさと整えたハル姉が、玄関で靴紐を結びながら私を振り返った。

「なんで同じ靴二足も買ったの? 片方貰っても良い?」

 言われて見た靴箱には、確かに同じ靴が二揃えある。

 別に私が二足買ったわけじゃなくて、それは忘れものなのだけれど――

「誰が忘れてったんだっけ?」

 独り言に返事はない。

 目を留めた鏡には、いつも通りの姿。

 いつからだったか、髪の毛にほんの一房、どうやっても直らない癖がついてしまっていた。


「鏡になんか見惚れてないで早くしなって。置いてくよ」

 しびれを切らしたハル姉が扉を開いた。さんさんと注ぐ光が私のすぐそばにまで飛び込んでくる。

 先行くハル姉を追いかけて、外の世界へと足を踏み出す。

 さあ、もうすぐ夏が来る。

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【キャッチボール小説】鏡は冷たく六花を誘う 狂フラフープ @berserkhoop

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