第12球 残雪はいつか消ゆ
第11球 咲わぬ春を忘れぬ月に
https://kakuyomu.jp/works/16817139555266066744/episodes/16817139556852619939
なんとかなると思っていた。
今は上手くいっていないけれど、いつか、全てが上手くいって、昔みたいに戻れるって思ってた。
だって、私はそうだったから。
語り続けるみどりの声は、話し始めとは比べ物にならないくらい震えて、涙で滲んで、くしゃくしゃになっていて、それでもみどりは声を止めなかった。
私がハル姉をころしたんだ。
私が助けなきゃいけなかった。いつだって私を、ハル姉が助けてくれたみたいに。
みどりが自分の心を自分の言葉で引き裂いていく。
その姿にハル姉も私も、返す言葉が見つからない。
心のどこかで、みどりを自分の代わりだと思っていた。
私には言えないことを、みどりが代わりに言ってくれるのだと。
私に踏み出せない一歩をみどりが踏み出せるのは、みどりが私よりもずっと、傷付き、苦しんでいるからなのに。
なぜ私は何も言えずにいるのだろう。
みどりが私とお姉ちゃんの問題を全部解決してくれて、この世界は何もかもハッピーエンドで、大団円の末にみどりは自分の世界に帰っていくというのだろうか?
仲直りして、何もかもが上手くいったハル姉と私に笑顔で手を振って、もうハル姉の居ない元の世界に?
みどりがハル姉を失ったのは手を差し伸べる勇気がなかったから。
ならば、苦しむみどりに誰も手を差し伸べないのは、自業自得だとでもいうのだろうか。みどりに手を差し伸べない私にも、いつか裁きが下るのだろうか。
動け。
動け私の足。私の手。
もう言葉を聞き取れないほどにくしゃくしゃになったみどりを、それでも声を絞り出し続けるみどりを、助けなきゃいけない。
「もういい。もういいよ」
けれど、みどりを抱き締めたのは、私の手ではなかった。ハル姉の手だった。
「あたしはあんたのお姉ちゃんじゃないけどさ、あたしだったら、きっとあんたを恨んだりしない。あんたがそんな風に苦しんでる姿なんて、見たくないよ」
ああ。
ハル姉は。
幼い日、私にとってのヒーローだったあの頃から、ハル姉は何も変わっちゃいないのだ。どんなに自分が傷付いていたって、誰かのためになら動くことができる。
私とは違う。
私はハル姉にはなれない。そして、みどりにもなれない。
あんな風に、傷付きながら前に進むことが、私にはできやしない。
みどりがこの世界にやってきたのは、私に罰を与えるためなのだ。
私さえ居なくなれば、その隙間に収まるのはみどりだ。そしてみどりは、きっと私なんかよりずっと上手くやるだろう。何もかもうまくやるだろう。
抱き締め合う二人を眺めて、私は呆然と、涙さえ流さずただそこにいる。
私には、ハッピーエンドの輪の中に入る資格がない。
ようやく足が動く。
自分のやるべきこと。居るべきでない人間は、居なくなってしまうこと。
そして、ハル姉の腕が私を抱き寄せた。
第13球
https://kakuyomu.jp/works/16817139555266066744/episodes/16817139557610907318
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