第8球 鏡の色を知っている

第7球 見知らぬ白は優しくて

https://kakuyomu.jp/works/16817139555266066744/episodes/16817139556216039429


 あなたは誰と尋ねながら、私はその答えを知っている。

 夢の中で、鏡の中に、何度も彼女を見たから。

 彼女の生きる世界を見たことがあるから。


 目の前の女の子の瞳の中に、私と同じ感情を見た気がした。

 自分は誰かという問いに、口を閉ざしたままの彼女は、質問に答えられないのではない。質問に答えていいのかわからないのだ。


 だから私が声を掛ける。

「みどり? みどりだよね。私のこと分かる?」

 彼女が肯定とも否定ともとれるような曖昧な反応を返す。

 それから。

「ねえ、今日はいつ?」

 躊躇うように今日の日付を私に聞いた。

 壁の時計のデジタル表示を見れば、そんなことはわかるはずなのに。けれどどうして彼女がそんなことを聞くのかが私には分かる。

 だって時計には西暦が載っていない。

 私は答え、私と私は目と目で通じ合う。

 この子は私だ。鏡の中の、私とは少しだけズレた私。


 私は、彼女に起きて、私にはまだ起きていない出来事を知っている。 

 彼女が心に大きな傷を負っていることを、私は知っている。

 私にとってはまだ日常で、けれど彼女にとっては失われ、二度と会えないはずだったもの。

 彼女はそのためにこちらに来たのだと、理屈でなしに確信した。


「ましろ……あんた、この子のこと知ってるの?」

 怪訝な顔をするお母さんに謝って、ほんの少しだけ二人だけで話せるよう席を外してもらう。


 なぜって、病院を抜け出す相談なんて、聞かせられるはずもないのだから。


第9球

https://kakuyomu.jp/works/16817139555266066744/episodes/16817139556493389551



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