第6球 青に変わる


第5球 まだ赤いhttps://kakuyomu.jp/works/16817139555266066744/episodes/16817139556064751734



「ね、ねぇお兄ちゃん、妹が可愛いのは分かるけど、急にどうしちゃったの?」

 事情も分からないまま抱きしめられると気恥ずかしさが先に立って、私は何とかお兄ちゃんを引き剥がす。

「お前がトラックに轢かれたって聞いて」

 ようやく落ち着いたお兄ちゃんの口から出てきたのは、予想もしない言葉だった。

「何言ってるの? 私がトラックに轢かれたように見える? そんなばかな人違いしたそそっかしいのはどこの誰よ」

「だって、母さんが電話で……ああ、そうだ。お前の無事を報せてやらなきゃ」

 そう言ってお兄ちゃんはお母さんに電話を掛ける。


「お母さん、今どこ?」

 一向に繋がる気配がない電話にしびれを切らして、私はお兄ちゃんに尋ねる。

 お母さんに無事を報せたいのもそうだけれど、だって轢かれた子は私と勘違いされたままでは、事故に遭ったことを家族に知ってもらうことさえできないのだ。

「東病院。付き添って救急車に乗っていったって」

 すぐ近くだ。電話が繋がるのを待つよりも、直接行った方が早いかもしれない。お兄ちゃんが友達から借りたという自転車を又借りして、私は病院へ向かうことにした。




 辿り着いた病院で、私は息を切らせて轢かれた女の子のことを聞く。

「ええ、大丈夫です。もうひとりがいらっしゃると聞いていましたから。すぐに病室へどうぞ」

 看護師は私の顔を見てはっとした様子を見せ、見ればわかるとでも言うように身元の確認もなしに通してくれた。

 別の若い看護師に案内され、早足で手術室へ向かう。

 轢かれたのは赤の他人ですとでも言えればよかったのだけれど、とにかく目的地に着けばわかることだ。


 近付いてくる手術室のドアの向こうから、どうしてか聞こえるはずもない蝉の声が聞こえてくるような気がした。


第7球

https://kakuyomu.jp/works/16817139555266066744/episodes/16817139556216039429

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