第5球 まだ赤い
(https://kakuyomu.jp/works/16817139555854103666/episodes/16817139555936642704)
夕方六時。
とっくに家に帰っているはずの私は、まだ運動公園のロビーの片隅にいた。
窓の外はもう真っ暗。おまけに雪まで降っている。
さっきまでは、あんなに暑い日だったのに。蝉たちがあんなにうるさく喚いていたというのに。こんな異常気象が起こるなんて、天気予報では聴いていない。
なのに、何故かみんな防寒具をしっかり着込んでいて、半袖薄着で震えているのなんて私だけ。周囲からの不審そうな視線も冷たかった。
「お母さんも、くそ兄貴も、一体どこに行ったの……?」
外があんまりに寒いから、やっぱり私も車に乗せてもらおうと引き返して来たけど、二人がなかなか見つからない。
兄の高校名なんて覚えてないから、祝杯ムードな集団の近くを探したのだけど……。
「……ハァ」
私はため息をついて渋々立ち上がった。ストーブの前でずっと暖まっていたいけど、置いてきぽりにされちゃ堪らない。……あーぁ、私も携帯買ってもらえたらいいのに。
もうとりあえず車の前で待っていようと、駐車場へと足を向けた。
「――っ!!やっぱりさむーっ!」
やっぱり夏服じゃあ、この銀世界の寒さに耐えられない。まるで裸になったみたいに、冷気が身体の芯まで突き刺さる。
それでも、何とか少しだけでもマシになるように走って向かうことにした。身体を動かしていれば、凍えることはないかもしれないし。
私はガチガチに冷えた手足をブリキ人形みたいにぎこちなく、力任せに走り出した。
次の瞬間。左手からつんざくようなクラクションが聴こえた。
ハッと立ち止まると、視界いっぱいに迫ってくる大型トラック。強い衝撃が全身を包んで、私の身体が宙を舞う。視界の端で赤く光る信号機。
――あぁ。薄れていく意識の中、遠くで兄貴の声がした気がした。昔みたいにしゃきっとした声で…――。
(https://kakuyomu.jp/works/16817139555854103666/episodes/16817139556085491774)
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