3.

私と咲良さくらはいろいろな話をした。

 お互いのことや、幽霊と生者の違い、幽霊になってからの生活。私のこともいろいろと話した。

 だけど、本当の意味で訊きたかったことは、訊けなかった。


刹那せつなさんは訊かないんだね」

 図書室で彼女と待ち合わせして、場所を移して話していた。

 人が来ない場所、というのは案外少なく教師ですら立ち入らない場所となるとさらに少ない。

 結局いつも同じ場所、つまり屋上へ続く廊下の階段を使っていた。

 彼女は突然そんなことを言い出す。

「……何を?」

 私はいわれていることを理解しつつも、わからないふりをする。そんなことが彼女に対する誠実さではないことを知りながら。

「知っているんでしょ? 私が自殺した一年生だって」

 触れたくても触れられなかった、柔らかく繊細なところへ沈み込んでいく。

 黙っていると咲良は続けた。

「私の名前を聞けばすぐに誰か思い当たるはずだもの。だけどあなたは私のことを決して訊こうとはしなかった。まるで訊くことが悪いことだというように」

 彼女の言葉になんて答えるべきか考える。

 そして、私はいった。

「……ごめん」

「どうして謝るの?」

 咲良の切り返しは安易な逃げを許さない圧力があった。

「あなたが死んだことを……死んでいることに言及することがとても失礼だと思った。私は生きているのになぜ死んだのか知ろうとするなんて、そんなこと……」

 私が言葉を失い、その先を続けることができなくなっていると咲良は私の眼を見ていった。

「刹那さんは優しいんだね」

 眼を見られていても眼を合わせていなかった私は、彼女の瞳を直視する。

 薄いミント色の瞳は真剣さを宿していた。

「私はね、刹那さん。あなたが私との差異を本気で捉えて考えてくれていることがうれしい。刹那さんが生きていることを負い目に思っていることも。だけど、それを気にする必要はないの。ここには、あなたが生きていることを責める人はいないのよ」

 咲良は私のことを優しく諭した。死んでいない私に対して、それを肯定するように。

「……ごめん」

「謝らないで。私は刹那さんと話せるだけでうれしいの。だから、刹那さんに無理をしてほしくない。私は刹那さんにも、楽しいと思ってほしいから」

 咲良は私を優しいと評した。

 だけど、本当に優しいのは咲良のほうだ。

「ごめん……」

 私はただ謝ることしかできなかった。

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