立花夫妻の勝負録 〜立花誾千代はナチュラルに煽ってくる夫を負かしたい〜
灰猫
第1話 立花誾千代は『剣術』で負かしたい
うららかな、のどかな風が頬をくすぐる。
館の縁側で、のんびり空を眺めるには絶好の快晴の空の下で。
「──婿殿。剣術で勝負しましょう」
鈴の音のような凛とした声に、青年が振り向く。
艶やかな黒髪と雪化粧のような肌。一国の姫にも関わらず男装の衣装に身を包み、自信に満ちた勝気な笑みを浮かべているのは、立花
彼女の手には二本の木刀が握られていた。
「また唐突だね、
そんな彼女に呆れた様子でその夫たる青年──立花
「百を超えたあたりから数えていません、そんなの」
「なら、相当やっているわけだよね……いつになったらやめる気なのかな」
そう、すっとぼける
ふんと鼻を鳴らして、その慎ましい胸を反らした
「当然、私が勝つまでです」
「じゃあ、一生終わらないね……」
今度はため息だけでなく、肩まで落とした
「は? 喧嘩売っているんですか、婿殿。私が婿殿に一生勝てないとでも言う気ですか?」
「そうだけど。直接言わないと分からないのかい?」
「あははははははは……昔はあんなに泣き虫だったのに、婿殿も言うようになりましたねぇ?」
「そりゃ、僕だって色々な戦場を経験してきたからね。
「は? は? どの口が言っているんですか、婿殿。私と婿殿の勝負、ずっと引き分けですよ。そのくせに『負ける気はしない』とか、よく言えますね!」
「言葉の通りでしょ。負けてはいないじゃないか」
「その言い方は、『いつでも勝てる』と言っているのと同じです!」
「同じじゃないよ。
意図せず煽り文句を並べる
念のためもう一度言うが、彼に決して悪意はなく、純粋に心の底からくる言葉であった。
「ふ、ふふふふふふふ……相変わらず口だけは達者なようで……今日も調子が良さそうですねぇ、婿殿」
「うん? すこぶる良いよ。体は軽いし、今日は天気が良い。仕事もある程度片付けたことだし、こんな日は領内を散策してもいいね……あ、
完全に
「そういう意味で言ったんじゃありません! あと一緒にも行きません! ほんっと自由な人。婿殿って昔から自分勝手ですよねっ?」
「そんなことを言われるのは心外だな。
「今、その話は関係ないでしょうっ? というか、婿殿には言われたくないです! ──あぁ、もう! 腹立たしい人ですね、そんな婿殿は私が叩きのめしてあげますっ」
堪忍袋の緒が切れた
「えぇーー……結局、やるのかい? 僕は散歩の気分なんだけどな」
「問答無用っ! 早く構えなさい、婿殿!」
「……はぁ。仕方ないなぁ」
これは相手をしないと終わらないなと観念した
そうして、互いに向かい合うように立った。
「ふん。それでいいんです。さぁ、婿殿。今日こそ私が勝ちますからね」
「それ、いつも言っているよね。もう聞き飽きたよ」
「うるさいですよ! ──いざ、参りますっ! やあぁっ!」
木刀を構えた
「お、良い太刀筋。あと相変わらず、掛け声が愛らしいよね」
「
「うーん、そう言われてもね……おっと、危ない。
相変わらず木刀を交わすことはせず、ひょいひょいと軽い身のこなしで躱していく
「そういう婿殿の剣術は無茶苦茶ですよね!」
「うん。戦場じゃあ型にはまった剣術はあまり意味がないからね……だから、こんなこともする」
「うわっぷっ! ……え? 砂っ?」
唐突な反撃に面食らう
「そうだよ。戦場では正々堂々とかないからね……さて。いい加減、僕も面倒になってきたところだし、そろそろ勝たせてもらお──」
そう告げて、怯んだ
「──婿殿っ!
「……んん?」
突然の𠮟責に今度は
「それでも
頬を膨らませて、持っていた木刀の先で地面を指す
いやいやと、
「いや、
「な お り なさい、婿殿」
「………………はい」
有無を言わさない気迫に、粛々とその場で正座する
こうなるから、いつも引き分けで終わるんだよなぁ、と。
今回の勝敗──
立花夫妻の勝負録 〜立花誾千代はナチュラルに煽ってくる夫を負かしたい〜 灰猫 @urami
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