第5話 ある少女の最後


 鉄格子が鈍い音を立てながら、ゆっくりと開く音がする。


「時間だ、出ろ」


牢番の男が、もう立つ事も出来ない私を引き摺り牢の外へ出る。

引き摺られている両足は、既に感覚がない。


 どこで間違えたんだろう……

 どうしてこんな事になったんだろう……

 私はただ、幸せになりたかっただけなのに。


 あの日アルの元婚約者をエスコートしていた男性は、隣国の大公子息だったそうだ。捕らえられた後に牢番と拷問官が教えてくれた。

何でも持っているお嬢様をエスコートしている男性が、たまたま私好みだったから声をかけただけなのに、どうして私がこんな目に遭わなければいけないの?



 そんな事を考えていると、いつの間にか広間に連れて行かれていたようだ。

たくさんの見物人がいるのが、うっすらわかった。


何か偉そうな人が私の罪状を言っているようだけど、もう耳もまともに機能していない私には関係のない事だ。

引き摺られてささくれ立った縄のような物が首に通される。

あぁ私は今から死ぬんだ——



 もう歩く事も立つ事も出来ない私は、牢番に体を支えてもらっている。見知らぬ男に体を触られる事への嫌悪感すらもうどこにもない。

そしてふと私は空を見上げた、本当に気まぐれに。



目もほとんど見えていないはずなのに。五感の全てが殺された筈なのに。無性に涙が溢れた。

だって見上げた空が、私の死を祝福しているかのように雲一つない青空だったから。


 そんなに悪い事をしたんだろうか……

 ここまで痛めつけられる事を、私はしてしまったんだろうか……


私には、もう何も分からない。

そんな風に考えていたその時、スッと地面から体が浮くのがわかった。


 ごめんなさい——


誰に向けての言葉かは分からない。

ただ私の頭に最後に浮かんだ言葉だった。








end.


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