ごめん、好き

 僕はアオイが好きだ。でも、それを伝えたところであんまり意味が無い気がする。


 だって彼女は、


 去年の夏に交通事故で死んでしまった。葬儀にも行ったけど、普通に眠っているような顔は今でも夢に出てくる。


 目の前にいる彼女は僕の幻覚なのかもしれないし、幽霊かもしれない。でもそれでいい、アオイのことが好きだから。どんな形でも、彼女を感じることが出来れば。


「どうしたの?」

「....なんでもないよ」


 胸から込み上げてくる苦しい何かと涙を我慢しながら、彼女の頭を撫でた。ふさふさだ。目を細めて穏やかな顔をしている。本当は、今すぐ声を出して思いっきり泣きたい。そしてを後悔している。


 去年の夏休み前日。ちょうど今日みたいな日だった。アオイに遊びに誘われたんだ。さっきモナカを食べたあたりで、近くの小川で釣りをしようと。それを僕は断った。


『何でお前なんかと遊ばなきゃなんないんだよ』


 そこから喧嘩になって、二人とも傷だらけで半泣きのままあぜ道を帰った。あの時ごめんって言えば。最後に聞いた彼女の言葉は「じゃあね」の一言だ。その二日後、信号無視の車に撥ねられた。


 下唇を嚙みながら遅すぎる謝罪した。


「ごめん」


 やっと言えた。震えた変な声で。


「いいよ」


 やさしく、子供に母が接するように、彼女は静かに言った。風鈴が穏やかな風に吹かれて悲しく鳴っている。澄んだ青空に、遠くから大きな入道雲が迫ってくる。


 彼女が今、どんな顔をしているか見れない。右頬を涙か汗か分からない物が伝っていく。


「好きだ。アオイ」


 もっと早く言えば、素直になっておけば、彼女に好きと伝えておけば。そんなたらればをいつまでも僕はしている。もういないはずの彼女に僕は恋をし続ける。たとえそれがどんなに惨めで、情けなくて、執念深くて叶わないものだとしても。


 こんなこと誰にも言えない、こんな幸せなこと。


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アオイ夏の日 谷村ともえ @tanboi

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