西瓜
2階の自室に荷物を放り投げ一階に降りると、西瓜を切って彼女が来る準備をした。しばらくすると、チャイムが鳴って玄関に彼女がいた。薄着でタンクトップの間からは焼けた腕とは違い、白い肌が見えて目のやり場に困った。
「来たね。上がりなよ、西瓜切っといたから」
「お邪魔します」
数年ぶりに彼女を家に入れた。今は13時、この時間に親はいない。共働きで帰ってくるのは17時過ぎ位だ。それまで僕は一人で留守番している。居間に通して、テーブルに三角形に切られた西瓜を並べた。雨戸を全開にすると、気持ちいい風が通り抜けていく。
「先食べてるから」
「いいよ」
アオイは既に縁側に座って西瓜を頬張っている。僕も隣に座って食べ始めた。蝉の声はどこか遠く、風鈴の音が優しく響いている。僕達は特に喋ることもなく、黙って西瓜を食べていた。咀嚼音だけが二人の間にある沈黙を埋めていた。西瓜を二つ食べ終わったあたりで、彼女が話し出した。
「ねぇ」
「なに?」
「私、あんたのこと好きだよ」
思わず食べていた西瓜を吹いてしまった。庭に種とドロドロになった赤い果肉が散らばる。彼女はまじめな顔をして、庭を見つめたままだ。
「い、いきなり?」
「うん。好きだよ、小学校3年くらいから」
急な告白に、心臓がびっくりして鼓動が早くなっていく。風鈴が風になびかれ喧しく鳴っている。
「なんで?僕なんか...」
「私もよく分かんないんだ。ただ、あんたといると落ち着くというか...安心するんだよね」
淡々と恥ずかしいことを言ってくる彼女を僕は直視できなくなって、さっき吐き出した西瓜を見た。そこには少しずつアリが集まって、果肉をせっせと運んでいた。
「だから好き」
風が止み、風鈴の残響と心臓の音がずっと耳に残る。緊張して隣を向けない。体中から暑さとは関係ない汗が出てくる。
「あんたは?」
「僕は....」
上手く喋れない。正直、僕はアオイのことが好きなのかもしれない。彼女を見ていると、ドキドキしてくる。恥ずかしくて話しかけられないし、どう接して良いか分からなくなってきていた。僕は気づいた。これが恋....?
俯いたまま、僕は答える。
「......好き。なんだと思う....」
「相変わらず中途半端な奴だな。可愛いやつめ」
彼女が左肩に頭を乗せてきた。髪が地肌に当たってゾクゾクする。柔らかな花の匂いが香り、息遣いが聞こえる。暑さなんて気にならない。
アオイが含み笑いをして、気が付くと手を握られていた。お互いの指を絡め、恋人つなぎで。柔らかく、優しく、冷たい手で。
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