第19話全面戦争

 僕達は後のことを竜戦士に事後処理を託し、本国へ戻っていた。帰って来たテファリーザ王国の状況は酷い物だった、豊かな農地は焼かれ、国民の死傷者も多数出ていた。被害も大きかった。本国には掘削機くっさくきが幾つも置かれ、侵入してきた後があちこちにあった。国民に緊急避難を呼びかけ、本国まで誘導させる。仕方のないことだった。国民は旅行の留守を狙われたことに憎悪の眼で見られ、地下都市の住民は流石に順次迎撃に当たっていた。それでも負傷者が出ていて、テファリーザ王国の地獄と対比して見られた。こんなところに地下都市があるとは誰も思わなかったらしく、治療班が怪我の手当てに追われていた。国民は説明を求め、押しかけていた。国王として冷静になる様説明すると、納得できないのか、暴動にも発展しそうだった。国軍の責任者カイルが説明をして、国家存亡の危機だと無理矢理納得させた。竜戦士達が機械兵に手一杯の所を見て、不安がる人々が多かった。


「しかし、どうする、貿易都市を機械兵が攻めているぞ、防戦一方じゃないか」

「カイル落ち着いて、アリアの身が心配よ、一か月以内には約束を守る気がないと判る。これからどう対策していくかどうかよ」

「アリアの分析は始まっているだろう、この合金はエビル室長の報告ではこの惑星には存在しないものらしい。強固な敵だ、まずアリアを救出しなければいけない、ただ、巨人型の機械ギガントは量産化出来ている。監視衛星での運ばれた土地、北の要塞であることに確認が取れた、今出撃しなくてはいけない、特別機は三機ある。情報処理に長けた特別機だ。僕とクリスとマリアの分だ、カイル達はこの地下都市を量産型で守って欲しい。悪魔の部隊も置いていく。アリアは必ず救い出す」

 カイルとセイラは心配そうに沈黙で答える。

「では行ってくる。航空機の開発も進んでいた、三機をそれぞれ乗せて運ぶのに支障ない。アリアの身に何かある前に宣戦布告して来るよ」

「お父さん、僕お母さんを助ける」「私もお母さんを助けたい」

「期待しているぞ、我が子達、テファリーザ王国の命運がかかっている」


 その場から消え去る。黒い漆黒の巨人型に乗り込む。クリスは青で、マリアは赤だ。

「ハザン様、準備は出来ております、量産型は本国防衛に徹しますので、ご安心を、アリア様を奪還してきてください」アイクルとシズ達が無人機を操縦している。カタパルトで射出され、大空に飛び立つ。しばらくしたら北の要塞が見えてくる。無人機と分離すると要塞に三機剣と盾を持って降り立つ。悪魔の救出部隊も地上から潜入する。監視衛星では地下の隔壁が分厚く何十層にも重ねられている。アリアは最下層にいる。数十代の当主の記憶と経験値で膨大な情報処理を行い、悪魔の救出部隊にルートを選択させる。穴をあけるべく『てん』を絞って口腔から発動する。光が放射され、隔壁に穴をあけると思った。しかし、無力化される。クリスもマリアも試すが同じ様に無力化される。そこに天空から機械仕掛けの羽を持つ巨人型の天使が雲の間を割って現れる。情報処理によると『隠蔽いんぺい』効果があるらしい。

「待っていたぞ、ハザン、呪われ子共よ、この天使の巨人型要塞を欺けるとは思うなよ」

 レイド監督官の声が高く響き渡る。勝利を確信した声だ。

「お前達の『天の火』が通用しないのはゼロタイプの特徴『ゼロ領域フィールド』の力があるからこそ、何物も無力化してしまうのだ、弾丸も刃も天空高く飛ぶこちらには攻撃が届くまい、そしてこちらは『ゼロ領域』を使うと」漆黒の巨人型が圧倒的な力で吹き飛ばされる。山脈に叩きつけられる。不可視の力と圧倒的な質量弾のような物も感じる。

「無敵の矛と無敵の盾を持っているのだよ」外骨格に穴が開いて魔法薬がにじみ出している。再び勝利を確信した声で高く笑い続ける。


「お父さん、大丈夫、あいつは僕達が抑える、お父さんは地下に巨人型で穴をあけて、お母さんを救出して単純な力なら大丈夫だよ」

「『天の火』はこういう使い方もあるのよ」マリアが『天の火』を剣に纏わせる。天空高く飛び天使型に斬り付ける。『ゼロ領域』が干渉して大気がびりびりと震えるが、あと少しの所で反発する。天使型は不可視の弾丸を打ち出し始める。

「アリアの分析は終わっている、数千年の寿命と肉体強化、素晴らしい技術だが、テファリーザ王国にはもったいない。わが大国の技術の一部となり消え去るがいい!!!」

 レイド監督官は不可視の圧力を凄まじい力でかけてくる。押さえつけられる三機。穴だらけになった隔壁を、こじ開けて地下に進んでいく。外骨格の穴の開いた個所から魔法薬が漏れるが、強引に捻じ曲げる。隙間に体をねじ込み隔壁を押し開いていく。最下層までたどり着くと、手術室の寝台に乗せられたアリアを悪魔の救出部隊が助け出している。

「アリア、大丈夫か!!!」最悪の予想が頭をよぎる。

「ハザン様、これはアリア様ではありません!?『隠蔽』機能の機械兵です!!!」

 悪魔が報告すると、「ハザン様!!!地下都市が攻撃を受けています、機械兵と機械仕掛けの羽を持つ天使が上空から進軍して来ます。魔法薬の弾薬が通じません、無力化されます。量産型で食い止めていますが時間の問題です。お急ぎでお戻りを―――」

 アイクルから通信が入る。アリアに化けていた黒い全身スーツの男は火炎放射器で悪魔を焼いていく。漆黒の巨人型で体を両断する。アリアはどこに連れされた、天使の巨人型要塞が怪しいが、今は本国に戻るのが先決だ。悪魔は応急処置をして、漆黒の巨人型に収容されて行く。全員を回収するとあちこちから爆発が起きる。また自爆装置だ。


 レイド監督官の乗る天使の巨人型要塞に聞く。

「レイド監督官、約束はどうした、アリアはどこにいる!!?」

「さあな、自分の頭で考えて探すことだ、見つける頃には骨と皮だけかもしれないが期待はするなよ」冗談のように笑いながら話す。

 クリスとマリアは『ゼロ領域』を見切って上手くかわしていた。攻撃もできないが時間を稼いでいた様子だ。盾で不可視の質量弾を上手くそらしている

「お父さん、お母さんはどこにいるの!!?」

「お父さん情報処理を繋げるわ、三機分の頭を使いましょう。『隠蔽』機能の兵士は外しましょう。時間がない。急ぎましょう」

「あれはかなり負荷がかかる。五歳児では耐えられないぞ、クリス、マリア!!!」

「良いよ、お父さん、お母さんを見つけるためだ、情報処理をリンクしよう」

「私もいつでもいいわ、三代のテファリーザ王国の力見せてやりましょう」

 仕方がないと思いながら、三機の情報処理を繋げて稼働させる。頭の中をかき回されるそんな感じだ、五分も耐えられない。分析は終わり、アリアは衛星軌道上の十二枚の機械仕掛けの羽を持つ機動要塞きどうようさいに囚われているのがはっきりとわかる。天空にいる『ゼロ領域』の弱点、全身を覆いきれない後ろの空白を見つける。クリスとマリアは鼻から血を出して、目からも血を流していた。「やっとわかった、あいつの弱点、幾ら『ゼロ領域』でも万能じゃない、『天の火』!!!」「そうね、『天の火』!!!」双子の光の柱が『ゼロ領域』の隙間を縫って天使の巨人型要塞に命中する。炎を上げて爆散する。


 しかし、合金製なのか損害は軽微だ、あらかじめ強化して置いた部分かも知れない。

「よく『ゼロ領域』の弱点が分かったな、しかしそれも対策済みよ、笑わせるな、その程度の技術力で大国とやり合うなど片腹痛いわ――――」後ろから無人機の大型ミサイルが空白の弱点を爆散する。天空高く飛んでいた巨人型要塞の高度が降りて行く。漆黒の巨人型は天使型にしがみつき、『天の火』で強化した剣で弱点を貫く。内部から爆散する天使の巨人型要塞、ここにはアリアはいない、思いきり『天の火』の出力を上げて、天使型の喉笛のどぶえを貫く。

「おのれ、ハザン、また機会があれば潰してくれる、軌道上の『天の火』発射装置は把握済みよ、機動要塞の聖なる炎がお前の国を焼くだろう。刮目して見よ、テファリーザ王国の滅ぶ様を、貿易都市も残らず破壊してくれる。笑いが止まらぬ、その天使の空中要塞に私は乗っていない、滅ぶならこの国ごと滅ぶがいい!!!ハザン」

 急速に『ゼロ領域』の力が集まり、爆縮する。盾で完全防備態勢を取るも大国ごと、大陸ごと、爆散するかのような衝撃波に巨人型の機械ギガント特別機は木の葉の様に揺れ続ける。

「また自爆か、しかも自分達の国まで滅ぼす気か、信じられん」

「お父さん、踏ん張って、まだ終わっていない、空中に弾き飛ばされそうだ」

「お兄ちゃん、頑張って、光が急速に闇に変わっていく。もうすぐよ」

 三機の他、無人機も爆散して、巨大なクレーターが出来て大陸は円錐状に削り取られていた。首都も北の要塞も、山脈もくぼ地になっていた。空が晴れると、軌道上の『天の火』発射装置が爆散する。機動要塞から攻撃があったようだ。

「ハザン様、地下都市は悪魔の巨人型でようやく追い出しました、情報提供ありがとうございます。アリア様は衛星軌道上の機動要塞に囚われています。いかがいたしますか?」

「アイクル当然、取り返す。自国を投げ出すほどの力を手に入れた大国だ、手加減はいらないさ」

「承知しました、一端お戻りください、機械兵の上級版も出て参りました。『ゼロ領域』装備です。自爆装置も搭載しております。厄介な相手です。テファリーザ王国の数千年の歴史このために会ったかと思われます。お急ぎを、巨人型の換装を済ませねばなりません。アリア様は必ず取り戻しお助けします」

 漆黒と青と赤の巨人型は走り始める。大地を蹴って、子供達の母親を取り戻すまで、そう決意して自国に戻り始めていた。

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呪われ子と災厄の騎士団 灰児 @hurusawa-99

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