第18話大火

 テファリーザ王国の国家は外大陸全域にも認められるようになり、その圧倒的な軍事力で国家としての基盤を構築していった。僕は国王となり、両大国は休戦協定を結び国家の復活を認めた。一時的なものかもしれないが、テファリーザ王国は復活したのだ。僕は国民に奨励を出し、新たな国家建設に向けて動き出していた。外大陸の貿易都市も通じて独立区を作り取り込んでいった。両大国は表向き独立を容認する動きを見せて、『ハザン商会』の物資の分析を始めていた。多額の賠償金を支払い、技術を底上げして国家の力を大きくしようと画策していた。捕らえられたレイド監督官は魔法薬の治療を受け順調に回復していった。顔の火傷は残るが薬で治す気がなく、捕虜交換で西の大国に戻っていった。


 両大国とわだかまりがありながら二年の歳月を過ぎた。外大陸の勢力は伸び続け、直轄地として統治していた。副責任者であるセイラは城のメイドと仕事に忙殺されており、カイルも国軍の責任者として忙しい日々を過ごしていた。カイトも四歳になり自分のアトリエで絵を書く毎日を過ごしていた。一方アリアと母親は仲良く料理や裁縫、双子の勉強など見て過ごしていた。五歳になったクリスとマリアは書類仕事を手伝うようになり、仕事をこなしながら、後継者としての教育を受けていた。黒い眼球は魔法薬で隠していた。


「ねえ、あなた、私幸せだけどいいのかしら、始めはあなたの眼を見て恐ろしかったけど、あなたはずっと重い物を抱えていた。独立は果たしたけど、私達の故郷に一度戻りたいの、両親が心配だし、村の皆が危ない目に遭っていないか、兵士を派遣しているだろうけど、両親に会って確かめておきたいの、いいかしら」

「そうだね、あそこはダヤンが眠っているし一度報告しておきたいね、カイルもセイラも誘おうか?仕事に疲れてそろそろ休暇が必要だよ」

「いいわね、クリスとマリアも連れて行っていいかしら?私王妃になったから両親きっとびっくりしているわ、だいぶ外大陸も開発して発展している様子だから、久しぶりに学校の友達も学園長にも会いたいわ」この二年で随分打ち解けてくれたと思う。最初は怯えて泣いていたけど、強化処理を受けて子供達と遊ぶようになり、和らいだ部分があったかもしれない。母親とも話し合い苦労話を聞いている内に仲良くなっていった。何より母親がクリスとマリアを可愛がって嬉しそうだ。カイルとセイラに念話で事情を説明する。帰郷を喜んで受けてくれた。


 旅行の準備をして、外大陸の村に向かうため、自動車に乗り込む。カイトも一緒で、母親は城に留まるらしい、竜戦士に守られながら出発する。広大な豊かな農地を見ながら初めての旅行にカイトは浮かれている。

「ハザンおじさん、クリスとマリアの両目怖いけど、正統な後継者だからだよね。テファリーザ王国は変わっているね、可愛いのに絵にかきたくなるくらいだよ」

「あら、カイト、プロポーズかしら、私は簡単に落ちないわよ」可愛らしく微笑む。

「カイトも変わっているな、一日中絵を書いているから、勉強を見てあげるよ」

 クリスは双子の妹のことを思っていてくれて嬉しいようだ。

「おや、カイト、もう結婚する気かい?父親としては嬉しいけど、寿命が延びたからもっと考えて欲しいな、セイラもそう思うだろう」

「カイル、カイトは真剣なの、それくらいわかって欲しいわ、四歳児でも初恋なのよ」

「お母さん、恥ずかしいから言わないで、二歳の頃から見てきた、僕だってわかっているつもりだよ、ハザンおじさん達は特別だと思う。ただ眼球が黒いだけで呪われ子なんて遅れているよ」


「カイト、君がそう思っていてくれるだけで随分助かっているよ。変わった子だなと思っていたけど、そうかマリアの嫁ぎ先が見つかったのかも知れない」

「あなた、早すぎるわ、マリアの気持ちも考えて欲しいわ、ねえ、セイラ」

「私は別にかまわないわよ、婚約するのにいい機会かもしれないわね」

 僕達家族とカイル達は明るい話題で日常の重さから救われたかのように、帰郷していった。港で徹甲船に乗り換え、子供達ははしゃぎながら村を目指した。

 町まで来ると学園長の邸宅に挨拶して、初めてひ孫の顔を見て喜ぶ姿があった。

「カイルもセイラもよく来た。カイト、お爺ちゃんだよ、そうか、絵を書いているのか、中々芸術家だな。ハザン国王もアリア王妃も私も学園長として鼻が高いよ。村によるつもりだろう、育ての親の墓参りか、あの村もハザンが整備して町になっている。町長夫妻も待っている、行ってあげなさい」学園長は帰りにまた寄ってくれと言い送り出す。

 町まで発展した村まで来ると、住民が歓迎してくれる。

「ハザン国王、戦争に勝ってよかったな、おかげで儲けさせてもらっているよ」

「ダヤンの墓は石碑として作り上げていたぞ、良かったな」

「町長に子供を見せに来たのか、アリアも久しぶりだ、王妃だって変わったな」

 皆でダヤンのお墓参りをしてしばし祈る。クリスもマリアも真剣そうだった。

 町長の邸宅に行くと喜んで歓迎され、今日は泊っていくことになった。今まであったここと話しているうちに、深夜になってそれぞれの家族で眠りについた。竜戦士は夜遅くまで夜の番をして、メイド達も空いた屋敷で休んでいた。


 いきなりそれが叩き起こされる。

「おい、ハザン町の方が燃えている。町全体が燃えている!!!」

 町長夫妻が起きて来て扉を叩く。竜戦士とメイドがすぐやって来て、準備を整える。

「ハザン、私はカイルとお爺様を助け出して来るわ、あなたとアリアはこの町を守って、いいわね」カイルとセイラは竜戦士と共に自動車を町の方角に走らせる。

「見てあなた、魔女の森が大火で焼けている、この風向きだと町も危ないわ、避難しましょう」あちこちから火の手が上がる、どうもおかしい、人為的な気がする、子供達を預かり、皆を水辺まで避難させる。そこにメイド姿のシズが駆け込んでくる。

「旦那様、大国の機械兵の軍隊が攻めてきました、本国でも地下都市に侵入されています。迎撃していますが、実力が互角で攻め切れません、いかがいたしましょうか?」

 シズはアリアに駆け寄ると守るような素振りを見せる。違和感がある、何故子供達に行かない、いきなりすぎる、避難している住民にも冷たい眼をしている。


「お前は誰だ、シズじゃないだろう、誰が化けている。アリアから離れろ!!!」

 シズはアリアの首筋を触り「バチィ」と電流を流す。高い電流に気絶するアリア。そのまま抱えて逃げようとする。クリスとマリアは母親を追って、魔女の森の方に行ってしまう。いかに強化処理を受けているとはいえ五歳児だ、簡単に跳ねのけられる。僕は町の皆が軍隊に取り囲まれているのを感じる。それも特殊な軍隊だ、手足が機械でできている。体もあちこちを改造されている。こんな技術テファリーザ王国の技術でも知らないぞ、剣を抜き疾風の様に駆け抜け、切り結ぶが、瞬間移動に近い技の数々も難なくついてくる。黒い全身スーツを着た部隊は左小手から火炎放射器で炎を吹いてくる。右手から電流を出して、こちらに近づいてくる。戦力が悪すぎる、どこの部隊だ、機械兵の軍隊は速さも力も並みの物ではない、外大陸にこんな技術があったのか、徐々に子供達と追い詰められる。


 アリアは攫われてしまった、もう追いつかないだろう、剣に化物のような筋力で、機械の腕を両断する、剣があっという間に刃こぼれしてしまう。子供達は電動銃で針弾を打ち出すがまるで効いていない。瞬間移動に近い速さで頭部を狙うが火炎放射器を食らってしまう。水辺に飛び込んで消火するが打つ手がない。ここまでかと思うが、竜戦士が戻って来て、互角の戦いを繰り広げる。メイドも正体を現して蜘蛛の糸を出し、徐々に動けなくなる。悪魔の部隊がついて来ていて、その圧倒的な戦闘力で機械兵を壊しながら、捕まえて行く。子供達と町の皆を守りながら、アリアに念話で呼びかけるが返事がない。魔女の森の大火に紛れて逃げ出したようだ。アリアは人質か研究材料にされるのだろうか、不安が頭をよぎるが、悪魔の部隊が捕まえた機械兵に吐かせようとするが、自爆してしまう。連続する爆炎の衝撃波に一歩も動けない、悪魔にも負傷者は出たらしく、蜘蛛のメイドが手当てしていく。空中に機械仕掛けの羽を持つ天使が浮かんでいる。顔に火傷があるレイド監督官だ。


「レイド監督官、これはどういうことだ!!?アリアを返せ!!!」

「ハザンこの技術は失われた大陸で偶然見つかった物だ、大国が探し当てた偶然の幸運というやつだ、外大陸の機械技術一体の機械文明の申し子ゼロタイプから派生した我々はもう後れを取るつもりはない、この二年人体実験はやり尽くしたからな、流石に自国民を改造するのは心苦しいが戦争に勝利するためだ、仕方のないこと、志願兵がたくさんいてね、困ることはない、自分もその一人だ、これからテファリーザ王国は苦しくなるぞ、人質が惜しければ各貿易都市から勢力を引け、一か月以内だ、では戦場で会おう。ああ、地下都市を見つけたのも攻撃したのも本当のことだ、竜戦士は手ごわいが悪魔の戦闘力には目を見張る。それも絶対ではないが、ではさらばだ、良い返事を期待しているぞ」

 にやにや顔に笑いを張り付けながら、上空高く消えて行った。


「ハザン!!!これはどういうことだ、アリアが化物に攫われたぞ、お前達も化物だったのか、テファリーザ王国は呪われている、どうする気だ!!?」

「お父さん、これには事情があるのです。今は理解しなくてもいい、アリアは必ず取り戻す。今はそれしか言えません」

「ハザン様、機械兵の部品を見た所見たことのない合金でできています。アリア様が攫われました、分析にかけるでしょう、強化処理が伝わってしまいます、こちらの不利です。一時帰国しましょう」悪魔の部隊がそう報告する。

「逃げるのか、ハザン町も全部燃えてしまった、学校も学園長も無事が知れない、一体どうなっている、この世界は……」


「ハザン、セイラの邸宅が焼けて学園長は助け出したが、他は全滅だ、あいつら町ごと燃やしていきやがった」カイルは念話で話してくる。

「ハザン、子供達は無事!?厄介な相手ね、剣が通用しないの、竜戦士と強化された獣人と、蜘蛛のメイドと悪魔で戦ったけど、残らず自爆したわ、アリアはどうしている?」

「アリアは西の大国に攫われた、一か月以内に貿易都市から手を引かなければいけない。子供達は無事だ、また戦争になる。アリアの無事はわからない、巨人型の機械ギガントでもどうなるか、レイド監督官が機械仕掛けの天使に改造してあった、対策は練らなければいけない、空を飛行していた、本国の底を出さなければいけないな。決着はつけなければいけない」セイラの念話に答えながら、アリアは必ず助け出す。全面戦争になるぞと覚悟していた。



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