第17話『天の火』

 ハザンの独立宣言は両大国にすぐ伝えられ、鉄道で集められた大国の軍隊は国境線で待機することになった。外大陸まで影響を及ぼし貿易都市で徹甲船の量産化に乗り出していたテファリーザ王国は囲い込みを始める。戦車も配備され、形勢は不利かと思われた。フリート国王はレイド監督官の監禁を解いた。誤りを認め、これからの対策を考える。

「短期決戦がよろしいかと思われます、国王様。いかに強力な軍隊といえ小国程度、本国を落としてしまえば、周りの徹甲船も使えなくなります。戦車もこちらに捕らえて構造を分析するのです。国力も何倍にも上がった今、同じ様な物を作り出してしまえば良いのです。『ハザン商会』は敵国認定してしまいましょう。東側の大国と歩調を合わせるのです」

「レイド監督官すまなかった、私の見解が甘かった。許して欲しい。まさかハザンが呪われ子だったとは、思いもしなかった。医者の検査もごまかしたのであろう。しかし独立運動とはこの十八年計画を練っていたのか、油断はできない。何か確信があるのだろう、どう思う皆の者」

 騒めきながら貴族たちは話し合いを続けている。今すぐ小国に攻め込むべきだとか、周りの貿易都市を抑えるべきだとか意見が分かれている。


「メラトラ女王の書状によると、テファリーザ王国は教会から魔国指定を受けるそうだ。外大陸にもそう発表されている。近いうち両国から同時に攻め込む手筈が書かれてある。西から十万、東から十二万これで決着がつくであろう、レイド監督官も前線で武勲ぶくんを立てて欲しい。線路が整備されている今攻め込むには容易い。ハザン王子も見誤ったな、現在の状況はどうなっている」

 騒めきながら衛兵が玉座の間に飛び込んでくる。

「国王様に申し上げます、武装列車がそれぞれの首都を強襲しております。何やら黒い鱗の生えた巨体の兵士の軍隊が、首都の軍隊に攻撃を仕掛けています。反撃に転じていますが、剣も弓矢も通らず苦戦中であります。国王様すぐそこまで軍隊が迫っております。今はこの場を離れることが先決だと思われます!!!」

「何だと、もう列車で攻撃を仕掛けてきたか、首都の全軍で迎え撃て!!?」

 レイド監督官が大声で叫ぶ。衛兵はもう一度報告する。

「攻撃が通じない特殊な軍隊です。総崩れになっております。まるで悪夢を見ているかのようです。一般市民の被害はないですが、半数以上もう討ち取られています。また貿易都市からの軍隊が首都に攻め込んできております。戦車も来ており止まりません。首都は完全に包囲されつつあります。国王様状況を立て直すため、列車で首都を離れるように進言します。どうかお急ぎください」

「わかった、北の要塞に移動しよう。警護の軍隊は列車を動かせ!!!」

 そこに竜戦士がなだれ込んでくる。貴族達や兵士達を黒い川の流れの様に打倒し、国王を拘束してすぐ離脱していく。巨体で流れるような動きの練度、人間の動きではなかった。レイド監督官は部下に守られながら、その様子を見ていた。


「馬鹿な、あれが通常の軍隊だと、災厄さいやくそのものではないか、身体能力が異常に高すぎる。目で追えないくらいだ、国王様が攫われてしまった。衛兵!?守りはどうした!!」

 首を切り裂かれた衛兵の死体の山が積み上げられている。ぞっとして呪われ子は人間ではないのか、東側の首都も同じ様な物か、国境線の軍隊は何をしている―――国王様を取り返さなければ、「残りの武官国境線で合流するぞ、国王様をお助けするのだ」声を振り絞るが悪夢のような軍隊に意気消沈している。残りをかき集めて外に出ると軍隊の騎士団の死体の山があちこちに築かれている。流血の川が流れ出ている。私達は何を相手にしているのだ、化け物か何かと戦っているのか、ハザンお前は何者だ。

 レイド監督官は首都を包囲していた軍隊が引いていく報告を聞く。目的は果たしたということか、まだ国力は十分ある。小国など踏みつぶしてくれるわと士気を高める。

 東側でもエリザ監督官もメラトラ女王も拘束されてテファリーザ王国の古城に監禁されていた。その中にフリート国王も加わる。国境線では両大国の軍隊が侵攻しようとしていた。

 西の大国に竜戦士が動員されて壁を作っている。そこに西の軍隊が攻め込んでくる。竜戦士の大剣の振るう一撃は兵士数人を両断して行く。兵士は戦意喪失して崩れ去り敗退する。追い打ちをかけるように竜戦士は殲滅戦を展開していく。一人一人の兵士に力の差があり過ぎた。戦車も出てきて砲撃を加えて行く。流れは見えたように感じた。レイド監督官もそう思った。それが潮を引くように竜戦士は引いていく、戦車も同様だった。


 それを見た大国の兵士は絶好の機会と進軍していく。マーキングされた土地に誘導されているとも気づかずに避難した家々に火を放ち進軍速度を上げて行く。住民はあらかじめ避難を誘導されていた。竜戦士が待ち受ける土地に陣を張る。動かず様子を見ている。西の大国でも同じように陣を張り竜戦士と向かい合っている。その数補填されて約十万と十二万レイド監督官も陣頭指揮を執り、東の大国の軍人と協議を重ねる。貿易都市の拠点は鳴りを潜めている。何が狙いかまず国王と女王達の解放を勧告する。条件はテファリーザ王国の独立だったが、外大陸の拠点を抑えられてはやりづらい。表向き認める形にして、両軍が攻め込む態勢を準備する。竜戦士の後ろには戦車の群れ、古城にはテファリーザ王国の国軍が控えている。人質の解放の連絡を託して講話の準備に入る。テファリーザ王国の独立についてだ。土地と国軍の保障、住民の大国での平等な扱い、これまでの技術提携の継続、独立宣言の公式な認定、ハザン王子の身分の保証、継続する国の認定、賠償金の支払い、過去の過ちの裁判の公開など、どうしても人質を取り返したかった大国は、次々とテファリーザ王国の有利な条件を出して来た。ハザン王子との話し合いも含まれていた。それは日々戦争の過ぎていく中で自然と決まっていった。ハザン王子がいた外大陸も標的にされつつ計画されて行った。


 ハザン王子と両大国との話し合いの時、古城でレイド監督官と東の大国の交渉人が顔を合わせることになった。

「お久しぶりですね、ハザン王子、人質解放の件は考えてくれましたか?」

「レイド監督官監禁から逃れ出て良かったです。心を痛めていたのですよ」

 東の大国の交渉人も挨拶する。部屋には竜戦士とアイクルとシズ、エビル室長もいる。カイルやセイラ、アリア達は隣の部屋で待機していた。

「ではテファリーザ王国の独立を認める方向で確認していいですか?」

 あの黒い竜戦士がいる、うかつに動けない両大国の代表、その中で話し合いは進んでいく。

 国王と女王達の解放が必須だ。その条件でなければ飲めないと断りを入れておく。ハザン王子は解放を認める形になる。不戦条約にも条件に入れて欲しいと要望を出して来る。レイド監督官は、不意打ちは難しくないが後の大国の心証が悪い。ここまで発展させた国の技術体系を認めて、ある程度の自治は容認すべきではないかと考える。人質も悪く扱われている印象にない、だが東の大国は強硬路線を譲らない、もう一度国ごと亡ぼすべきだと強弁する。数十日の話し合いの結果、決まらない。戦線を維持し続けるだけでも大変なのにここで意見が統一しない。両大国は鉄道を使って物資を運んでいる。まだ余力はある。だがテファリーザ王国は包囲され持久戦に持ち込まれていることに気付いているはずだ。どんな手段で出てくるかわからないが国力をある程度削いでいるはずだ。そこに人質の解放と不戦条約の取り交わしが決まる。千載一遇の機会だった。東の大国は軍隊を引き始め、西の大国も同じように歩調を合わせて引き始める。


 大国の王と女王は日々交渉人に説得され消耗していたが、テファリーザ王国を諦めてはいなかった。『ハザン商会』の根本から奪い取る密約も交わされ、竜戦士が守る戦地へ再び進軍しようとしていた。テファリーザ王国の使者が送られ何事かと問いただされる。約束は破られ再び戦乱の日々に落とされようとしていた。使者は逃げ帰り、ハザン王子に報告する。

 僕は苦笑いを浮かべながら、『てん』の発動を地下都市で命じる。家族もカイル達も見ていた。轟音を上げ地上を焼きながら進む天の光をまず西の十万が消失して東の十二万も消失する。国王や女王は運よく逃げ帰り、そういう機会で撃ち出した『てん』は茫然とした顔に火傷を負ったレイド監督官の姿を映し出す。焼けこげた死体の山の中にいて助かった様だった。部下に恵まれているなと思いつつ、もう一度レイド監督官の捕縛を命じる。

「何なのだ、この国は、一瞬にして二十万以上の軍隊が焼失したぞ!!!」狂った哄笑で笑いながら絶望の淵に立つ男の姿を見る。治療班に任せながら、両大国の国王と女王に通告を出す。両大国は空に光の柱を確認して、自軍の軍隊が壊滅したことを報告で受ける。信じられないと思いと恐怖で怯え始める大国。テファリーザ王国の住民は神の光を見たと狂喜していた。僕は事実上の建国宣言を出してテファリーザ王国の領土を確定した。外大陸での独立も視野に動くことになっていた。ただ両大国がこのまま終わるとは思えなかった。

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