第16話独立宣言

 古城の部屋の中で四人が向かい合っている。アリアの顔色が悪い、セイラも緊張している。カイルもどことなく落ち着かない様子だ。子供達はメイドに預けてある。

「さあ、どういうことか話してくれ、ハザン」

 黒い眼球をさらしている僕に目を合わせるのに相当の勇気が必要のようだ。どこまで話していいか迷う、アリア達を信じたい、嫌われるかもしれない、でも勇気を出そう。

「旦那様、女王様がご到着になられました」シズが報告する。

「通してくれ、シズ。母親には三年も待たせてしまったからね」

 アリアが反応する。母親が入ってくると、僕の黒い眼球を見て確信しているように見える。ゆっくり入って来て抱きしめる。その顔はよく似ていた。横顔がそっくりだった。

「息子、正体を明かす何かがあったのね、アリアさんね、息子の子を産んでくれてありがとう、これからこの城で暮らしていいのかしら、孫の顔が見たいわ」

「ゆっくりして行って下さい、どの道両大国から反応があるでしょう。ようやく戻って来ましたね、この城におめでとうございます、女王様」


「息子、他人行儀でなくてもいいわ、親子ですもの、私からテファリーザ王国の事情を説明しましょう。いいかしら?アリアさん達」

 三人は黙って成り行きを見ていた。

「ハザン、お母さんのことも隠していたのね、一体どこまで隠しているの、私の子は呪われ子かしら、説明して欲しいわ」

 震えているようで、何かを我慢している様子だった。

「アリアさん、呪われ子とは何だと思う。この子はテファリーザ王国の遺産を継ぐもの、代々の当主の記憶と経験値を受け継いでいるのよ、お分かりかしら」

「まさか!!そんな人間が存在するわけがないわ、では私達の子もあなたの記憶と経験値を受け継いでいるの、そんなのってないわ!!?」

 泣き出してしまう。セイラが慰めているのを見てカイルが、「説明してくれないか最初から、君が優秀過ぎるのは理由があったからだね。僕達に隠す理由なんだい?」

 僕は生まれてから魔女に攫われたこと、滝から落とされたこと、ダヤンに拾われたこと、魔女殺しのこと、十分な時間をかけて説明した。


「息子、大変な目に遭ってもこの国を諦めていなかったのね、アリアさん、あなたの子が呪われ子ならこのテファリーザ王国の正当なる後継者なの、それはとても良いことだわ、子供達を呼んできてくれる。アイクル」

「ハザン様、よろしいので、お子様には魔法薬を使いますか?」

「ああ、アリアにも現実を見て欲しい、僕が黙って来たのはこの国を取り戻すため、魔女を殺して力を取り戻したのは、ダヤンやアリアを殺さないためだ」

 徐々に理解が浸透し始めるアリア。

「だから二年間も行方不明だったのね、魔女を世話して殺して呪いを解くために」

「人一人分の血が必要だった、ダヤンもアリアも大事だった」

 アリアは入って来た子供達に駆け寄ると、抱き上げる。

「クリス、マリアお父さんの記憶と経験値を持っているの?私を騙していたの?」

「お母さん、僕達は生まれた時から意志があった。お父さんもつらい目に遭った、お母さんが驚くのは仕方がないにしても、それはお母さんのために幸せになるために、お父さんも必死だったよ。だからお父さんを怖がらないで、受け止めてあげて」

「お母さん、一緒にテファリーザ王国の本国に行こう、テファリーザ王国の研鑽がどれくらい膨大なものかわかるから、私達はお父さんからそれを受け継ぐわ」

 アイクルが魔法薬を瞼に塗ると双子に黒い眼球が現れる。

「私はどうしたらいいのかしら、私本当に王妃になるのね、お父さんが好きになって一緒になって、あなた達を産んだけど、後悔していないわ。ハザン私あなたを許すわ、あなたがテファリーザ王国に赴任したいと言った時、どうしてかしら?大国の騎士団長がいいのにと思ったわ、でも商売が軌道に乗って上手く行くと、そうなの、テファリーザ王国の代々の当主の記憶と経験値で薬草薬も魔法薬として売り出していたのね、あのぬいぐるみも女性の当主の記憶と経験値で作っていたの、料理もお裁縫も、全部私全然わからなかった」


「剣の腕前も弓矢も同じなのね、そんな存在なら本当に化物ね、言い方は悪いけど、テファリーザ王国の本国とはどういう意味、ここが王国の城じゃないの、本国は別の場所にあるの?」セイラが聞いてくる。

「カイトを呼んできてくれ、本国に招待しよう、お母さんもいいですね、お父さん達が成し遂げた物をしっかり見て欲しいです」

「いいわ、息子、ハザン私は覚悟があるわ、アリアも気をしっかり持ってね、あなたの子供達はどこまで行ってもあなたの味方なのよ」

「お母さん、私覚悟を決めました。夫の行く末を見届けるのも妻の役目、子供達もこれから生きていかなければいけない、私がしっかりしなくてはいけないわ」

 カイトをメイドが連れてくる。スケッチブックを持って離さないみたいだ。マリアの黒い眼球には驚いている様子だった。

「さあ、行こうか、テファリーザ王国の本国の地下都市に招待しよう」

 部屋の中の皆が消え去る。静謐な玉座の間に出る。僕は玉座の間に座ると各所に立体映像が浮かび上がる。アイクルやシズやガダンが控えている。映像には地下都市で暮らす人々、各種兵器類の倉庫、地上で混乱している国民達が多岐に渡って映し出されている。多くが古城目指して集まりだしている。農夫達が知らせたのだろう。「ハザン様」「ハザン様」の声が高まりだしている。両側には黒い竜戦士と強化された獣人、蜘蛛型の女性メイドなど改めて人間近くまで進化した姿で静かに控えている。アイクルも角や体毛など他は極めて人間に近い。エビル室長達は角と長い尾を持ち、その他は人間そのものである。


「これは一体どういうことだ、ハザン」

 女王も驚いている様子だった。カイルが問い詰めるように話してくる。

「これがテファリーザ王国の本国の地下都市、数十世代の当主達の研鑽、人造人間の製造の結果の地下都市だ。ここに住む者は全て当主達に創られた存在、寿命も長く長い間繁栄してきた当主達の膨大な研究結果だ。今巨人型の機械ギガントも製造中だ。上の文化とは一線を引いた人造人間の住んでいる都市だ。溢れる食料も高級な衣服も遊び場だってある。数千年続く人造人間の楽園でテファリーザ王国の本国を陰で支える力の一端だ」

「それは凄まじいな、この国の王がハザン君なのか、継承者がクリスとマリア、他の異形の物は人間に近いが、おそらく僕達より強いのだろうな、あの屈強な兵士もここから送り込んでいたのか、道理で呪われ子のはずだ、こんな力人外でしかない」

「シズ、あなた人間ではなかったの、アイクルもガダンもまるで人間のような蜘蛛みたいだわ、これも秘密にしていたの、あなた、確かに城からここまで一瞬で来たなんて信じられないわ、これがテファリーザ王国の本国の力の一端なのね」

「これがあの人が秘匿にしていた事実、確かに見定めたわ。ご苦労様息子、大変だったわね。これから、テファリーザ王国はどうするの?民衆があなたや私、子供達を放ってはおかないわよ、両大国とも戦争になるわ、用意周到に準備してきたのだろうけど、必ず勝てるけどその後はどうするの?」


 じっと玉座で皆の様子を見ている。セイラは物珍しくカイトは興奮した様子で、カイルは巨人型をエビル室長に聞いている。母親はじっと地下都市の住民を見つめている。アリアにはクリスとマリアが説明している。

「この両大国との戦争に勝とうと思う。皆の興味はわかるけど、皆に強化処理を受けて欲しい、数千年は寿命が延びる、最近の技術だ、エビル室長説明を頼む」

「はいハザン様、強化処理とは……」

 皆には理解できない様子で説明を聞いている。筋力や体力や持久力人間を超えた存在になる技術だ、瞬間移動に近い速さ、化け物のような筋力、念話でやり取りするコミュニケーション、頑丈な肉体、強化した頭脳、説明していくエビル室長は誇らしげだ。

「僕達はもう受けている。アリアも研究させてもらった、力は何段階も上がるだろう。ぜひ受けてくれないかアリア達、僕達と一緒に生きよう、子供達も望んでいる」

「ハザン、君が改めて化物に見える。でも僕達のことも考えてくれた。正直強化処理というやつは受けたい、ハザン、アリアの気持ちは考えているか?彼女寂しそうだぞ。これから数千年も一緒に生きていくのに気持ちが伝わなければ意味がない、もっと君はアリアを大事にすべきだ、少し考えさせてくれ、セイラどうする?ハザンの提案に乗るか、神に近くなってしまうぞ、カイトはどうする。僕達で決めていいのか」

「カイル、こんなチャンスこれからもないわ、受けてみましょう、ハザンも私達を信じて打ち明けてくれた、技術も開発して使おうとしている、正直怖いけど、カイトの為なら考えるべきだわ、これから数千年生きていくのに子供は人間じゃなくなるけどそれでも価値はあるわ」


 映像には父親が自害したテラスに住民が押し寄せている。「ハザン様」「ハザン様」という言葉が鳴りやまない。限界だろう、僕が出なくてはいけない。アイクルに任せると、僕は玉座からテラスに転移する。今出て来たように見せて、民衆に答える。

「テファリーザ王国の民よ、私は帰って来た。呪われ子として国を分割され圧政に苦しんでいた国に私はここにテファリーザ王国の復活を宣言し、両大国からの独立を勝ち取ることを約束する。今までご苦労だった、だが、『ハザン商会』本部であるこの城を本拠地として、両大国の軍勢に打ち勝つことを約束する。時は来た、この国は戦時下に突入する。各貿易都市と連携を取り、両大国に戦争を仕掛ける。本当の自由を勝ち取る戦争だ。諸君亡き父の代わりにこのテファリーザ王国の繁栄を息子ハザンが約束する」

 黒い眼球をした自分の言葉に巨大なうねりをもって答える民衆。賽は投げられた、もう引けない。準備してきた物をつぎ込んで新しい時代を作り上げる、そう覚悟していた、その様子を妻であるアリアは子供達とじっと映像で見つめていた。


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