第15話王子の告白
元テファリーザ王国の『ハザン商会』の手によって両大国の恒久和平の道は開いた。両大国からの書状が届き、優遇策の元テファリーザ王国の王国軍の編成整備が許可された。事実状の地方自治権を手に入れたのである。あるべき姿に一歩進んだ形になった。鉄道路線は繋がれ、外大陸の労働者は大国で路線の敷設工事を計画的に取り入れ、それぞれの首都は鉄道で結ばれることになった。フリート国王やメラトラ女王のお祝いの品が続々と届き、テファリーザ地方は沸き立っていた。僕は責任者として各地を回り、産業を立ち上げ、各貿易都市連携を取り、安寧な日々を送っていた。
家族でお茶を飲んでいるとカイルとセイラがお祝いを述べる。
「ハザンおめでとう、まだだけど念願の国の自由は取り戻せたね、これからどうする?両大国や外大陸の収支でかなり儲けて居るけど、新興の技術投資にも使われているね」
「私達の仕事が評価されて嬉しいわ、農機車も開発が進んで色んな用途に使われているわね。国軍の整備だけど、誰を据えるのか聞いていいかしら」
二人はカイトを抱えて、絵を書かせて遊ばせている。見るからに自分の仕事に誇りを持てて嬉しそうだ。クリスとマリアはアリアが本を読ませている。
「ああそれはカイルにお願いしようと思っているよ。自動車の開発と離れてもらうしかないけどね。いいかなカイル、もう十分功績は残せているよ」
「雇い入れた技術者が優れていたからね、騎士団長として国軍の責任者受けてもいいよ。もう騎士の時代ではないかもしれないからね。電動銃が開発されつつあるよ。プロトタイプの強力な電気式内蔵で、麻痺毒の針弾を打ち出す仕組みの銃が、ハザンが持ってきた案だけど、鎧甲冑も薄い所は貫くからね。どこまで戦いを進化させるのか、歩兵銃として正式採用するのはいいけど、自動車も戦時用の徹甲車も出来上がっているから、ずいぶん進化したよ。後は戦車が開発されたのが大きいね。あの砲塔のある試薬品で動く内燃機関と蓄電池の両輪で動く機械は悪夢だね、外大陸征服でも狙っているのかな?」
「外大陸の方は順調に『ハザン商会』の支店が広がっているさ、駐屯基地に戦車も配備する予定だ。蒸気船ではない徹甲船も造船所で造り出されている。各港に配置するつもりだ。相当の軍事力を手にしたことになる。両大国でも仕方なく認めるしかないだろうさ」
活版印刷の新聞を読みながら答える。
「この国のラインにも回してある。テファリーザ地方に配備して行こうと思う。国軍が認められたからね。独立運動成就の為、僕達の国を興すため精一杯やらせてもらうさ」
落ち着くように書類を眺めている。アリアがふと不安そうに尋ねて来る。
「ねえ、あなたこの地が戦乱になることはないわよね、独立運動の動きが暴走するかもしれないわ、この子達は危なくないわ、そうよね」
「心配いらないよ、アリア、戦車の輸出はまだ止めてあるから。どこにも技術提携はしないつもりだから安心していいよ」
クリスとマリアが懐いて抱き着いて来ると抱えながら本を読み聞かせる。
「私子供達を守りたいわ、戦争にならなければいいのに」
アリアから決意と覚悟の表情が浮かぶ。子供達を守りたい一心だ。セイラも賛同して古城のメイド達と子供達を教育する計画を話している。
「ハザン、護身用の銃を用意してね、専用の射撃場も作りましょう」
「僕も国軍の責任者として訓練するよ、軍自体はどうする、正式採用するかな?」
「まだ先で良いだろう、急がなくてもいい、まだ改良の余地はある。射程もまだ短いからね、使い慣れた弓矢がまだいいくらいだ。近日中には人数分用意させよう。クリスもマリアもいいかな?」
「うん、お父さん、僕は銃も習いたい」
「私は怖いけどお兄ちゃんと同じがいい」
そうか、と頭を撫でて笑みを浮かべる。アイクルに射撃場を造成するように命じる。
「旦那様、身辺にはお気を付けください。独立運動の関係者が応接間でお待ちです。断ったのですがどうしてもお話ししたいと、聞かないのです。私は心配です」
「兵士も同席させよう、話だけでも聞いてみるか……」
「僕も行くよ、ハザンの決めた国軍の責任者だからね」
「カイル気を付けてね、国民は自信を取り戻している。それがいい方向ならいいけど、国を取り戻すことは本当に大変ね、国民も私達を認めている。でも内心どんなことを考えているかわからないわ、強硬派の集団もいると噂で聞くから、彼らの真情がどの程度か探って来てね。この地方の自治が上手く働けばきっと機会はあるわ」
「ああ、セイラ僕を良く思わない奴らもいるだろう。しっかり話し合ってくるよ」
頬にキスをしてカイルとセイラは別れる。
アリアも抱きしめて来て子供達の所に戻る。
「行こうか、カイル」「ああ、ハザン」
部屋に入ると、農夫の姿の数人が応接間に座って緊張している様子だ。ガダン兵士長らが警護している。シズ達が壁の方に控えている。アイクルが彼らを紹介する。
「手短に行きましょう、ハザン様、この国の自治権はあなたが取り戻しました。テファリーザ王国の国軍の編成整備も優遇措置で許可されたと聞きます。あなたは呪われ子ではないがこの国では恩人のようなものです。力を貸していただけませんか、この地方が独立してテファリーザ王国の復活を成すために、十八年も苦しめられた両大国に復讐の機会を叶えるために軍の侵攻を計画してくれないかと話しに来ました」
「君達は苦しめられたのだろう、僕はそのためにこの地方に赴任して心を砕いてきた。農産物も薬草薬も農機車も男性の労役さえ取り図って失くしてきた。警護団から始めて国軍の編成まで取りつけて来た。鉄道計画も成し遂げた。両大国との首都とも繋げた。今更何の不満がある?両大国の住民は行き来して、この国の発展に驚いている。そして両大国の恒久の平和は成し遂げられた。テファリーザ王国の復活を願う国民がいることは十分承知している。このまま終わるとは思えない、歴史は王国の復活を望んでいると思うよ」
「そうですか、ではどのような計画で国を取り戻すおつもりで、話は進んでいるのですか?元女王様も生きているという噂も聞きます。ハザン様が後押しすれば解決するのではないのですか?国民は皆ハザン様に期待しております」
勢いづく農夫達、その様子をカイルは冷静に眺めていた。この農夫達は圧政の時の犠牲者の一部だろう。国民全員が体験してきたことだ。老人も女性も子供も、労役に苦しんでいた男性たちも、この国の感情は大きく揺れている。ハザンがあまりにも優秀過ぎて大国との戦争などと考える余裕が出来てしまった。戦争になれば犠牲者は弱い物から出る。それを忘れているのだろう。それを改善させたハザンの手腕は凄い、だが、この農夫達は国軍が編成整備されたから、技術的に上回っているから勝てるだろうと、簡単な予測しか立てられない。大局が見えていないのだ、幾ら『ハザン商会』が外大陸全域まで勢力を伸ばそうと、戦うのは目の前の本人なのだ。戦争で駆り出されるのも忘れているのか、本当に勝てるのか、わからないことがわかっていない。そのように見える。
「僕が国軍の責任者としてその要望は聞き入れられない。何故なら戦争で戦うのは君達自身だからだ、農夫が訓練もなしに死に行くようなものだ。君達の感情はわかる。でも何故大局を見ない、ハザンがせっかく用意した物をぶち壊す気か?」
「それは……カイル様あなたも騎士団長なら戦うことが仕事ではないのですか?あなた方はこの国に何をしに来られたのです。私共はあなた方に希望を見せられ、思いをはせました。この国が豊かになっていく様を、両大国に打ち勝つ時を、国をあるべき姿に変える時を、私達は十分待った。これ以上は待てません、私達は近日中に戦争を仕掛けます。ここで発言するのはせめてもの誠意です。独立運動に勝ち取ってこの国を真の自由にします。私達を捕まえても無理です、もう止まりません。これが大国の罠だとしても私達は仕掛けます。死んでいった我が子に顔向けできませんから」
農夫達は立ち上がり、部屋を出て行こうとする。
「ハザン!!止めるべきだ、彼らは何も見えていない。おそらく用意周到に準備をしてきたのだろう。この数十年この国の民は苦しんできた。現実が見えていないだけだ!!!」
僕は両手を組み考える。彼らを止める手立てを。
「僕が呪われ子だとしたらどうなる?この国の正当な後継者だとしたら君達はどうする?」
突然言い出したことに農夫達とカイルはついていけなかった。
「まさか、ハザン様が呪われ子?そんな偶然ありはしませんよ、騙しているのですか」
「そうだ、ハザン君は何を話している、君は捨て子だが、ダヤンに育てられたがそんなことは一度も聞いていないぞ、しっかりしろ、ハザン!!!」
「アイクル例の物を持って来てくれ、頼む」
「よろしいので、ハザン様?」確認するように聞いてくる。
僕は頷くとアイクルは魔法薬の入った容器を持ってくる。それを瞼に塗ると黒い眼球が現れる。しっかりとカイルと農夫達を見つめると「わかったかな、皆さん」と呟く。
「おお、確かに黒い眼球、十八年前の生まれた呪われた王子だ、ハザン様正当なる後継者よ、ずっとひた隠しにおいでになられた、我々はあなたに従います、ハザン王子のご帰還をずっと夢見ておりました」這いつくばって頭を下げる農夫達。
「そんな―――僕達にも秘密にしていたのか、十八年も、アリアにもセイラにもまさか君の子供達は呪われ子なのか、ハザン!!?」
「カイル落ち着いて聞いてくれ、僕はこの国の正当なる後継者、呪われ子ハザンだ」
「そんなことが、いや君の方がつらい目にあって来た。ここで秘密を漏らすのも彼らの為だろう。でもそんなことより僕達に少しは頼って欲しかったぞ、ハザン」涙を流すカイル。
「では、ハザン王子、女王様は生きていらっしゃるのですか?ここまで周到な準備をされて私共のせいで身分を明かしてしまったこと本当に失礼しました。独立運動は表明されるのですか?今後のこの国はどうなさるのです?」
「一時お引き取り下さい。旦那様は覚悟して明かされたのです。相応の時間が必要です。今回はお引き取り下さい」アイクルが言葉を重ねる。ガダン兵士長らが農夫達を追い立てるように部屋から追い出す。そこに親友の姿はあった。
「理由を聞かせてくれないかハザン」沈痛な顔のカイルがいた。
「長い話になるよ、カイル、それとアリア達には僕が話す。シズ、母親をこの城に連れてきてくれないか、もう隠す意味はない」
「はい、旦那様、承知しました」
深々と礼をしてシズ達メイドは部屋から下がっていった。
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