第6話 客室探検のご報告

探索した結果、この客室は広かった。


それはもう、広かった。

「客室ってより、客人3人組が滞在するための空間、みたいな?」


寝室は3つで、さっき俺らがいたのはそのうちのひとつ。

リビングは広くて、風呂場も日本の一般的な家庭の倍以上の広さはある。

おまけにオーブンのあるキッチン付き。


ちなみに言うと扉を開けて初めて見える空間は接待用の部屋みたいな空間で、そこからドア一枚隔てて居住空間。リビングから今並べた全ての部屋がつながっている間取りだ。

ご丁寧にプライベート空間とはきっちりわけてくれている模様。だって接待用の部屋にお茶を入れる簡単なキッチンみたいのがついてるもん。


で、そのリビングのソファで話し合い中な俺たち。

2,3人掛けのソファに、俺と向かい合って橘と桜小路という構図だ。


「僕もそんな定義な気がします」

頷く桜小路。

「何がちげぇの?」


未知な空間の冒険が終わり、とにかく好奇心と探求心がおさまった橘は大人しくソファの上で正座中。

でも会話の内容はあんまりわかってないっぽい。


単刀直入に言ってしまう。

橘はバカだ。


こいつは本能的にボールを捕れるし打てるから、どっちの面でも技術は恐らく誰よりもある。だが良くも悪くも馬鹿だ。


だから野手だった場合、ボールを捕ったは良いがその後の対処がわからないので、右往左往して終わりになってしまう。本人曰く、投げる場所を言われてもその名前と実際のポジションとを結びつけるのに時間がかかるから無理・・・らしい。


攻撃でなら監督とかがサインを出したときに、そのサインが表す動作とサインが直接結びつくからわかるんだと。


例えば、と橘が例をあげて説明してくれたことがある。

右と言われた場合、その言葉とそれが表す方向とを結びつけるのに時間がかかる。

だが右の方向を指さされたら、一瞬でわかる。

そういうことだそうだ。絶対サインとは別物だよなとかそんなことは思わない。


特に攻撃の場合、あらかじめサインが出てるから迷う必要がないんだと。突拍子もないボールとか変化球が来たとき以外は狙ったように球を打てるから。

うらやましい才能だ。それがあるから監督もこいつを試合に選手として出してる。


ちなみにうちのチームには橘専用のサインがあって、どこにどんな球を打つのか指示できるようになっている。それを憶える監督も選手も大変だ。しかも毎試合変わる。

そういえば、練習試合をしつくした相手にはもうサインのネタがなく、選手からの提案でピースとか小顔ポーズを臨時採用した。

それを中年の監督に一人、コーチボックスでやらせるのは酷だという選手の気遣いで、ベンチからは「ヒュー!」だの「かっわいい~!」だの、サインが出るたびに野太い声が聞こえていた。


久しぶりに思い出した。

くすっと笑ってしまう。あまりに微笑ましい思い出だ。

もしあのまま決勝に行けていたとしても、それで俺たちの部活は終わり。

もうポーズをサインにすることはなく、終わりだ。


そう思うと、ますます惜しくなってしまう。

決勝が。


そういえば、部員たちあいつらは今どうなってるんだろ。

突然いなくなってあたふたしてるか、もしかしたら小説みたいに俺たちがいた事実自体なくなっているのか。

試合にいた全員、こっちにつれてきたら今ごろは騒がしかっただろうな、なんて想像する。


・・・いけない。

今、落ち込むのは駄目だ。さっきの魔術師くんが来たら、全部説明してくれるんだから。


しばらく一言も発しなかった俺をよそに、橘に“客室”と“客人3人組が滞在するための空間”の違いを説明している桜小路。

ふむふむと聞いている橘。


・・・思い出した。無駄に野性的なこいつ、成績は5教科で25中の11だ。

桜小路の説明力の無駄遣いになりそうだな。ごめん。

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