第5話 いったん落ち着こう、3DKs。
さて、無駄に広い風呂に入って汗やら土やらを全て綺麗に流した俺たち。
――この世界にも風呂という概念があって安心した。
ただ俺たちの世界と違ったのは、お湯に魔法がかかっていたということ・・・多分、だけど。
風呂場に入った時はほんの少し乳白色の湯で、三人とも驚いた。そしてそこには石鹸などもなかったので、とりあえず流してみるかということで、置いてあったおけを使い体を流してみたのだ。
試しにだったが、何回か流しただけで汗も汚れも、全てが流されていた。
おまけに清潔な石鹸のような香りまで髪からしてくるのだから、驚いたというものではない。
そのあと湯舟(広い。25mプールの半分くらいはあるな。)に三人ともとびこむと、あら不思議。身体の疲れがとれていったのだ。
これには三人とも、何も言えなくなってしまった。
だが、それだけじゃない。風呂場から出ようとしたとたんに、俺たちの身体に纏わりついていた水滴は全て、流れていってしまった。
おかげで身体を拭く手間が省けたのだが。
・・・一言くらい、説明してくれても良いじゃないか‼
全力で思った。一瞬。
今はそれを利用して、置きベースにバットにボールにバッテに、とにかく持ってきた(正確に言うと桜小路についてきた)ソフトボールの道具と着てきたユニフォームを、水がダメなもの以外、次々と風呂の湯につけている。
ちなみに、いくら入っても風呂の湯は汚れなかった。これも魔法かなぁ。
「っわ・・・すげ」
そしたら期待通りに、いやそれ以上に、つまり普通に洗うよりも遥かに綺麗に、汚れが落ちた。
便利だなぁ。
だけど逆に、心配にもなる。
「なぁ、あとで“高額払え”とか言われない・・・よな?」
「はっ、ねーだろ。否応なくトリップさせられたんだからな、俺たち」
本気で心配になってきいたのに、鼻で笑った同級生。ひどい。
っていうか考えてみれば、俺たち人生まるっとかえられたんだぞ?
それにしては俺たち、意外と軽いような気がする。
まだ実感が湧いてないだけか?
とりあえずほぼ全ての物を綺麗に流して、いったん落ち着く。
「なぁ、そういえばさ・・・」
「ん?」
広いベッドに寝転んでいた俺たち。
それぞれに考えたいことを考えながら、15分くらいたったのだろうか。
橘が唐突に口を開いたのだ。
「さっきの人、5時間と47分後に来るって言ってなかった?」
「言ってましたね」
「うん。言ってた」
「なんでそんな、中途半端なんだろ」
うーん、と三人とも考える。
「——あっ」
桜小路が何か思いついたらしい。
「どうした?」
「うーん、いや、この世界と地球って、もちろん言語が違いますよね?」
「ああ」
「うん。まあ、俺たちが話してるのは日本語だけど」
「じゃあ、僕たちみんな、この世界の人たちと日本語で話してたってことは、自動的に翻訳されてるってことじゃないですか」
「——あー!」
大げさな反応をするのは橘。だが本題はここからだ。
「・・・で?」
「時間の単位だって、勝手に翻訳されてるんじゃないですか?」
「・・・なるほど」
「え、じゃあ、あっちの人たちにとって、6時間とかそういうキリのいい単位の時間だったかもってことか?」
「そういうことです」
なるほど、そういうことか。
別の世界とは、こういうものなのか・・・。
なんだか、感覚が狂うな。
いや、でも考えてみれば当然だ。
じゃあこの違和感の正体は何だ?
「・・・小説とかじゃ、そこの単位でそのまま表されるよな?」
「っ、それだ!」
橘が発した一言に、思わず上体を起き上がらせた俺。
なるほど、だから前読んだ漫画とかみ合わなくて変なかんじがしたんだ。
「どうしました、先輩?」
「・・・いや、何でもないよ」
驚くような、心配するような顔をしている二人。
・・・しまった。
ただでさえ環境が違って緊張してるだろう二人に心配をかけて、不安にさせるような真似はよくないだろう。
突然起き上がったらびっくりするだろうしな。
「何でもないっていうか、違和感がすっきりして思わず。思い出したとか思いついたとかそういうことじゃないから、安心して」
「ああ、そういうことでしたか。」
驚きが緩和された(?)桜小路。
「さて、今考えても、多分もう新しい情報は出てきませんから。先輩たち、とりあえずはここで暮らすことについて考えましょう」
「じゃーまずは部屋の探索!」
はいっ!とばかりに元気よく手をあげる橘。
お前は小学生か。
「まあ、しばらくはここで暮らすって言ってたし、それが一番現実的だな」
「だろだろ?」
今にも探索を始めたくてうずうずしている橘。
こいつはダンジョン探検かなんかと勘違いしてないか?
なんて言わない。
面倒くさいことになるのは目に見えてるから。
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