第8話
その日の夜、俺はメアリちゃんから貰ったデータを開封しようと思い、1人離れた場所にテントを立てた。メアリちゃんは特になにか勘ぐることも無くデータの入ったスマートフォンを手渡してくれた。ホームを開くとすぐに『真央へ』と書かれた動画が目に留まる。そこには自室でカメラに向かって話しかけようとする園田さんがいた。
「これを見てるってことは俺は死んじまったんだろうな……。
なーんてベタな切り口しちまった。それにしても俺死んじまったのかー。どんな最期だったんだろうな。……どっちにしてもまあ幸せじゃねーことは想像がつく。お前を置いて逝っちまったんだから。坊ちゃんもさぞ悲しんでるんだろうな……悲しんでるよな?
……んんッ。お前が真相にたどり着く前なのは確かだよな? でなきゃこんな小っ恥ずかしい動画お前に見せるわけねぇからな。
取り敢えず最初に謝っておく。俺は……いや、俺たちは全員お前を騙し続けていた。…………言っている意味が分からねぇか? それじゃあ答え合わせの時間だ。
お前は疑問に思わなかったか? 何故俺がお菓子の紙切れ1枚に瞬時に精巧な絵をかけたのか。
お前は疑問に思わなかったか? 何故周りの建物は大地震の影響で全て崩壊してるのに、施設だけが綺麗なままなのか。
お前は疑問に思わなかったか? 何故坊ちゃんが全ての道を丸暗記しているのにお前が来てからの数ヶ月間、俺達は1度も脱出を試みなかったのか。
お前は疑問に思わなかったか? 何故人1人見つけるのがやっとだった状況で、山賊なんてもんが急に現れたのか。
……疑問にすら思わなかったらお前は相当な阿呆だな。ははっ。
理由は単純明快、大地震なんてものは最初から存在してなかったんだよ。あれは自然災害なんかじゃねぇ。人為的に起こされた物だからだ。じゃあ誰がそんな事をしたのかっつー話になってくるよな。
それはな……俺たちなんだよ。どうだ? びっくりしたか?
んまぁそれが分かったら、今度は何故そんなことをしてしまったのかっていう疑問が浮かぶだろう。紆余曲折あったんだが、簡単に説明すると、俺たちはある研究所に幽閉され実験動物として扱われてた。そこでは人権なんて無いも同然。死んだら新しく入ってきたやつにまた惨たらしく実験を繰り返すだけ。正直、地獄なんてもんじゃ無かった。今日話しをしたヤツらが明日には死んでるかもしれないんだぜ?
何の実験が行われていたかと言うと……超能力だ。超能力を与える実験ではなく俺たちの持っている超能力を消す実験。
くくっ。鳩が豆鉄砲食らったような顔をしているお前が想像出来る。
……出来ることなら直接拝みたかったもんだなぁ。
俺の能力は念写だ。過去に行ったことのある風景なら全て持っている紙に写すことが出来る。こう言っちゃなんだがしょぼいんだよな。お前が倒れてた位置を念写してみたが記憶を取り戻すことはなかった。だけど、他の奴らはもっと凄い能力の持ち主ばかりだ。この場での説明はしないでおくが気になったら本人達にでも聞いてみるといい。まぁ主要都市を陥落させる程の奴らだ。それだけで凄いと思わないか?
あの場では言葉を濁したが、陽太郎たちを襲撃したのは山賊何て生易しいもんじゃない。恐らく国絡み武装勢力が本腰を入れて俺たちを殺害しに来たんだ。近いうちに俺たちも襲われるかもしれない。そう思ってこのビデオを遺す事にしたんだ。
探索部隊やら捜索部隊なんて名乗っちゃいたが人が見つかる事なんて誰も望んじゃいない。そんな中見つかってしまったのがお前だ。俺たちは人には危害を加えるつもりは無かった。だから、全ての人の避難を確認してから行動を開始した……はずだったんだけどな。
お前は更地になったトウキョウの中1人倒れていた。今更帰す訳にも行かなかったし俺たちは保護という名目でお前を監視することにした。
だが、目を覚ましたのは3年後っつーんだから面白ぇよな。取り敢えずトウキョウ無血陥落作戦の目標は達成したんだが。今度はお前が記憶を失ってるということが発覚した。監視役を名乗り出る奴がいない中、俺はいの一番に立候補した。確かに無血が作戦の第一前提だったがそれ以上人を殺す覚悟がある奴なんてのは当時俺を除いて誰もいなかった。
……俺はお前が記憶を取り戻し俺たちに害をなそうとした場合に殺す役目も担っていた。誰も見ていないところで風景画を見せたのもそのためだ。他の奴らに死体なんてもの見せたく無かったしな。
ここまで言っておいて何だが、俺はお前と過ごしているうちに情が湧いてきちまった。名前なんか考え出してさ。だから、本当は記憶も取り戻して欲しいとは思わなかったんだけどな。このままだと死に覚めが悪いからこうやって真実を話す事にした。お前は超能力も持っていないただの被害者だ。ここからどう行動するかはお前次第だが、最後に1つ呪いの釘を刺しておこう。
お前が裏切ろうもんなら女児を連れて小便しに行ったことの閻魔様にチクってやるからな! それじゃ!」
最期の最後まで食えない人だ、本当に。
「……本当に、な……」
俺はこの真実を知って一体どうしたら良いのか。本来の記憶を取り戻すという目的も達成出来ていないし、それ以上に帰るところだってない。まだ結論はしばらく出せそうもない。
グルグルと頭で考えが回るなか不意に園田さんのスマートフォンがなり始める。
「財前くん?」
真央が動画を開いたのとほぼ同時刻。園田の遺骨を持ち財前は1人舟を漕いでいた。群青に染る海とその水面に反射する丸い月。ただ黙って舟を漕ぎ、岸から随分離れたところで止まり園田の遺骨をばら撒く。
そして、財前はおもむろに電話を取り出しもう応答のある筈の無い番号にかけ始めた。
「約束は守ったよ。僕は貴方の思いを胸に必ず幸せになってみせる」
財前は小さく、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
『財前くん?』
「あれ? 真央くんか今園田さんの携帯は君が持ってるんだね。……聞こえてた?」
『いや、特に何も』
「そっか、帰ったら園田さんと君の話も聞かせて欲しいな」
『あぁ』
「それじゃ」
新たな信念を元に財前晶は再び舟を漕ぎ出した。
終末を刻む極彩色 空門杏弥 @rukki0316
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