第7話
次の日、俺の体調を考慮してか少し遅めの時間に出発し始めた。
ようやく見慣れた景色の辺りに着いた時施設の方向に黒煙が上がっているのが見えた。かなり天高くまで登っていてどこか様子がおかしい。
「……!? まさか」
そう言うと財前君は一目散に走っていく。それに負けじと出遅れた俺も走るが彼に追いつくことは無かった。走る度に濃くなっていく木ではない何かが焼ける臭い。その臭いがピークに達した時目の前に広がる光景に俺は腰を抜かしてしまった。
「何だ……これ……」
黒煙が上がった時点で予想は付いていたが頭がその結論を拒絶し続けた。だが、今までに嗅いだことの無い異臭、目の前に広がる業火、耳を絶え間なく侵す断末魔によって予想は現実に変わってしまった。
「とにかく火を消さないと。みんな手伝って!」
眼前の光景に無駄な足掻きを見せる者。
「拓真! 何も見えなかったのかにゃ!?」
身内を糾弾する者。
「そんな風に……言われても。ぼ、僕には何も! いや……園田さんが危ない!」
それに反発する者。
「避難が先だ! このままだと我々まで……!」
冷静に状況を捉え先導する者。
確かに混乱をしていたが俺を除いたみんな同じ顔をしている。まるで前にも似たような事があったかのように、この事態を予測してたように。
気付いた時俺は不意にしたプロペラ機の音に無我夢中で走っていた。もしかしたら救援が来たのかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら。
見上げるとそこには確かに一機の武装ヘリコプターが上空を飛んでいた。俺はもう喉から血反吐を出す勢いで助けを求めた。
「助けてくれェ! 山賊に襲われてるんだァ!」
するとその武装ヘリコプター俺の方を向いてくれた。良かった。これで助かーー
「伏せろ新入り!」
「……!?」
一瞬何が起こったのか分からなかった。だが、園田さんの声が聞こえた気がした。劈く轟音と共に火薬の臭い。そして鉄の臭いと流れ出る生暖かさ。
「堕ちろオオオオ!」
財前くんの絶叫とも言えるその声に応じるように、上空に浮かんでいたヘリコプターが地面に吸い込まれるように堕ちていき鉄くずに成り果てた。
「園田さん!」
「……カハッ」
見ると俺を抱き締めていた園田さんが血塗れになっている。ここでようやく俺は状況を理解した。俺はあのヘリコプターに撃たれてそれを園田さんが守ってくれたのだ、身を呈して。
「うそ……だろ」
「……そんな顔するなよ新入り……」
「園田さんもう喋ならいで……今すぐ医者を連れてくるから」
「もう……無理だ。医者だってここまでボロボロになっちゃ治せねぇ。それより状況説明だ」
「喋るなっつってんだろ」
初めて聞く財前君の怒号。優しさと悲しみに塗れた心臓の痛む声だった。
「嫌だね……今必要なのは……情報だろ」
「だったら僕がこの手で治す」
「止めろ!」
今度は園田さんの叫び声。
「……何度も言わせんな、ゴホッ。今のこの間違った世界には確実にお前が必要になる……! 俺みたいな雑魚兵に時間を使うんじゃねぇ」
「ッ……ぅう……」
「今無事生き残ってんのは、ガブリエラ、メアリ、医者だ。その他の子供たちはみんな連れてかれたし大人達は殺された。
それと、真央」
「……はい」
泣きじゃくる財前君に聞こえないように俺の耳元で囁く。
「……世話掛けたな。駄賃と言っては何だが大地震の真実を残した物をメアリに持たせた。今、分からねえ事も疑問に思ってる事も大体それ聞きゃ分かる」
「……ッ。はい」
「泣くな。俺は後悔してねぇ。これからはお前が坊ちゃんを……」
園田さんは息を引き取った。俺たちは施設跡を背中に地下水路に生存者を連れて戻ることとなった。そこに現実味は無く振り返ればまた園田さんが笑ってイタズラを仕掛けてくるような気さえした。しかし、何度振り返ろうともそこにあるのは焼け焦げた施設だったものだけだった。
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