第4話 失敗だらけの初デート・前編
入学式早々いきなり遅刻スタートとなった俺の高校生活だったが、翌日以降は寝坊もなければ、登校中に階段から落ちる人をまた見かける事もなく無遅刻無欠席で登校し、学校が見えて来た所で道を覚えつつある
そんなある日、今日も学校が見えて来た所で未央が俺を見つけて合流し、いつもの他愛無い話をしていた所だった。
「おはよう。エド」
「おはよう。未央。転校してもうすぐ一月経つが、学校慣れたか?」
「うん。隣の席の
恐らく五月に吹き込まれただろう、双健のぞんざいな扱いまで覚えてしまったらしい未央に、双健が少し哀れにも思えてきたが、そんな事はさておき、俺は未央に名前の呼び捨てへの許可以来の緊張した面持ちで、未央にある事を伝えた。
「あのさ……未央。今週末からゴールデンウィークだし、その……俺と二人きりってのはどうだ?ここまで色々駆け足だったろ?」
「デート!?うん、いいよ!」
「馬鹿っ、声がデカいっての!」
「俺と二人きり」と敢えて濁したのに、「デート」と直ぐに察する辺りは流石女子だろうが、俺とのデートに喜ぶあまり、周囲にいる人達なぞお構いなしの大きな声で返ってくるとは思わず、恥ずかしくなった俺は赤面になりながら未央を叱りつつ、日時と待ち合わせ場所を指定した二人きりという名のデートの約束に何とか成功した。
一仕事を終えた俺の一方、デートの約束にウキウキな気分のまま学校に向かう未央だが、実は勇気を出して告白した俺の発案ではないこのデート話の発端は、数日前に遡る――
数日前。この日も学校帰りの交番で
「エド。未央さんの学校生活、あれから順調かい?」
「ああ。転校して翌日でもうクラスに馴染んでたな。「マドンナだー!」と騒ぐ男子生徒も出る程だし」
入学式の遅刻の件で双健に名指しされて怖がっていた転校初日の未央だったが、翌日以降は、まるで以前からクラスに居たかのように打ち解ける順応さと、可憐な容姿に早くもクラスのマドンナとまで騒がれる程だが、そのマドンナが昔を知っている記憶喪失の俺に積極的に接するものだから、他の男子生徒から白い目線を見られているのが逆に恥ずかしいのだが……
「そういえば、エドちゃん。そろそろゴールデンウィークだけど、予定とかあるの?」
「予定か。特に考えてなかっ……って、永美さん?」
次に話を振った永美から、そろそろゴールデンウィークだった事に、「普通に中学の頃から続けている交番の手伝いで終わりそうだな……」と言おうとした俺に対し、突然永美が急にデスクから立ち上がり、俺に密着せんとばかりに近寄ってある助言をかけた。
「エドちゃん。せっかく未央ちゃんというエドちゃんを知ってる人が現れた以上、クラスのマドンナ様と、まず一緒になる時間を作るべし!」
そういや、未央を紹介した入学式の日以降、俺の記憶回復への手がかりを持つ未央を毎日一緒に交番に通わせるのも何だしと、進展があった事以外は五月と別々に下校していた為、未央に中々会えず、好きなカップル話に飢えていただろう急に真面目顔で助言する永美に呆気に取られる俺だが、これはつまり、未央とゴールデンウィークに二人きりでデートでもしろという事だろうか?
「永美さん。エドはまだ高校生になったばかりで、金銭的にそんなに余裕はありませんし、デートという理由で上からの経費なんて落ちませんよ。自費で出してくれるなら話は別ですけどね」
「衛土ちゃん。何もデートは名所に非ず、この町だけでも上手く活用すれば、名所に負けず劣らずのデートスポットにもなるわよ」
「だとしても、この町に丸一日潰せる程の名所とかありましたっけ?誤魔化してるようですが、一肌脱いでエドにお金を出す気がないのがバレてますよ」
永美によるデートの提案を衛土がさらりと一蹴したが、衛土の言う通り、高校生になったばかりの俺に金銭的に余裕なぞなく、「三年前の事件解決への手がかり」という名目でも、中身は他人のプライベート目的に上からの経費なんて落ちるわけがない。となると、残るは言い出した永美からのポケットマネーだが、結局この日は衛土に論破された上に、はぐらかされたまま終わってしまった。
その後も下校時に交番を訪れては、言い出しっぺである永美のデスクにデートに有りがちな遊園地とかのチケットも確認されず、段々ゴールデンウィークが近づく不安だらけの中、つい勢いで言ってしまった未央とのデートの約束に、軽い罪の意識を感じる俺であった。
「エド~!」
「おう。来たか……って、何で双健や五月まで来てるんだ?」
そして迎えてしまったゴールデンウィークでの二人きりのデート当日の朝。待ち合わせである駅前で未央を待つ俺に、遠くから手を振る私服姿の未央を見つけるも、明らかに未央一人ではない見知った連れの存在も確認し、合流した所で未央に理由を問い質した。
「五月さんや双健さんにも「エドとデート」と言ったら、「一緒に行く」と言われて……」
「というわけだ。抜け駆けしようだなんてそうはいかんぞ」
「まあ、二人より四人の方がいいんじゃない?」
俺とのデートに嬉し過ぎてつい双健と五月にも伝えてしまったらしい未央に、最早永美の提案による二人きりのデートが瓦解したが、まあ四人による休日も悪くないだろうと妥協する事にしたが……
「で、エド。仮に二人きりが叶ったとして、未央さんとどこに連れて行くつもりだったのよ?」
「確かに、こんな田舎におススメな所なんてないだろ」
「え?えーっと……」
五月と双健からの当初の懸念を突かれた指摘に、今になって「行き先なんて考えてませんでした」なんて言えるわけがなく、返答に詰まる俺に、丁度通りかかった二人の女性の会話で「隣町に出来たばかりの大型ショッピングセンター行かない?」を聴き取ったまさに救いの手から、俺はまさに藁にも縋る思いで、釣られるように五月らに返答した。
「と、隣町の大型ショッピングセンターはどうだ?」
「この様子だと、何も考えてなかったのね……毎晩交番で働くのもいいけど、テレビ見て時世も知りなさいよね」
「隣町の大型ショッピングセンターの事なら、駅近くにある最近出来た建物か?まあ、隣町程度なら俺らの金でも行けるだろ」
「でも、そこなら丁度私も行きたかった所だったわ。あそこなら、丸一日は潰せるでしょうね」
「よし、決まりだな……ゴメン、未央」
「ううん。エドや五月さんに双健さんとなら、どこでも良かったよ」
行き先なぞ一切考えてなかった無計画を看破された五月が呆れる中、双健と共に隣町の大型ショッピングセンターに同意し、俺は偉そうに場を仕切っては未央に謝るも、普通なら勉強不足の露呈で確実に好感度ダウンな所を、未央は優しく俺を許してくれた。五月の言う通り、今度からテレビもちゃんと見よう……
こうして、双健と五月の存在や、通りかかった人からの偶然がなかったら赤っ恥確定だったろう、出だしから大失敗の二人きりのデートから四人の休日は、丁度待ち合わせ場所である駅からの電車に乗り、一路目的地に決まった隣町にある大型ショッピングセンターを目指す事にした。
omoide 記憶を無くした少年とすべてを知る少女 ヒロツダ カズマ @domoHirodesu
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