最終話 占い師になった俺が至高の青春を創るまで
その日はとにかく大変だった。
警察による長い事情聴取。
主に、梨花が長引いたのが原因だが。
あとから聞いたのだが、あの時警察や救急車が早くも来ていたのは文殊が親父たちに連絡をしてくれていたらしく、それを聞いた親父たちがすぐに警察を呼んだらしい。
そこまで俺を信じてくれて本当に感謝しかない。
次の日、登校しても花山さんはあの事にはあまりふれなかった。
俺がいたことには気づいていたはずだが、なにか花山さんも察したのだろうか。
その日からオーディション結果が発表されるまでの1週間、特に何となく普段通り部活に通う。
特に卜占部としての占いの活動をすることも無く、ただ俺たちが喋ったりゲームをして終わり。
強いて上げるとするならば、付き合い初めて浮かれた渡辺さんがテニス部のオフの時に自慢話や相談に来たくらいだろう。
あの日から1週間後の日曜日。すなわち、花山さんのオーディションの結果発表日に俺は花山さんに呼び出された。
場所はここでいいのか?
花山さんに言われた場所で待ち合わせをする。
明らかに、病院の前なんですけど。
今から俺は検査でもさせられてしまうのかなあなどと心の中で軽口を叩いていると、「おはよう」と後ろから声が聞こえた。
「おはよう」
「待った?」
「まあ、少しだけ」
「正直だね」
2人でくすくすと笑い合う。
彼女の笑顔を見ると、まだ俺の心の中で残っていた不安などがすっかり消えたように思えた。
「それで、今日はどうしたの?」
「キヨくんにあってほしい人がいてね」
「それで病院?」
「うん。迷惑だったかな?」
「いや、別に」
「ありがと。それじゃ、行こっか」
「ああ」
「ってか、俺だけなんだな。てっきり他の奴らもいると思ったんだけど」
「一応みんな呼んだんだけどね。文殊と梨花はバイトでしょ」
「梨花は今日から毎週、週末にバイト入ってくれたらしいしな」
「キヨくんもでしょ? 頑張ってね」
「おう」
俺もこれから毎週土曜日だけだが、店の手伝いをすることになった。
俺が作ったラーメンを喜んでくれる人を見た時の感情は何にも代え難い。
「芦屋くんも呼んだんだけどね」
「来なかったのか?」
「うん。何かそこでするんですか?って聞かれたから会って欲しい人がいるのって言ったら普通に断られちゃった」
「芦屋は芦屋らしいな」
あいつも変わったようで根は変わっていなかった。
それでも、俺たちとはもう気兼ねなく友達と呼べるような関係になったのもまた事実だ。
「私的にはなんも聞いてこなかったキヨくんの方がびっくりだったけど」
「なんのことだ?」
「いや、普通病院で集まるってなったら、理由聞かない?」
「まあそれはそうか」
そうこうしているうちに病院内のある部屋の前で花山さんは立ち止まった。
「ここだよ」
「一応気をつけてね」
え? 一応?
何、なんか猛獣でもいるんですか。
怖いんですけど。
そんな俺の心配をよそに花山さんは扉をスライドさせる。
「おはよう。
「遅いよー華泉。もう待ちくたびれちゃったよ。でも、来てくれただけで嬉しいからぎゅーてしてあげるね」
花山さんが「ほらね?」と言わんばかりのアイコンタクトをしてくる。
なるほど、これは気をつけた方がいいかもですね。
「それでその子は?」
「この子がキヨくんだよ」
「君がキヨくんかあ。華泉からよーく聞いてます。いつもうちの華泉がお世話になっております」
そう言いながら光さんは俺に手を差し出してきた。
握手でもするのだろうか。
距離感すごいなあと内心では思いつつ、差し出された手に握手をする。
ぎゅう
「久しぶりの若い雄だー」
「ちょっと光何してるの!?」
「ごめんね。キヨくん」
「はあ。まあ、大丈夫ですけど」
花山さんが俺と握手している光さんの手を無理やりひっぺがす。
近くで見て分かったけど、この人は多分花山さんのアイコンの人だ。
「それで今来たってことはもうわかったんでしょ?」
「うん……」
急に雰囲気がガラッと変わる。
このわかったは恐らくオーディションの結果だろう。
俺だってあの日以降花山さんに関する未来は視なかった。
わざと避けていたのだ。結果を知ることはずるい気がしたから。
「今日呼んだのはそういう理由だし……。じゃあ、言うね」
俺が花山さんと出会ったキッカケ。それに、俺たちが繋いだ花山さんの未来。
これまでの思い出全てが今続々と思い起こされた。
「結果を言えばね……」
……
「主役じゃないけど、朝ドラに出演することになったの!」
「主役を決めるオーディションじゃなかったの?」
「本当はそうなんだけど、私がオーディションの時に言ったセリフを聞いて監督さんが君は違う役で起用したいって言っていただいて」
「それでねキヨくん。今まで言ってなかったんだけど、その時のオーディションのセリフがキヨくんと練習した時のセリフでね。キヨくんに手伝ってもらったおかげで役を手に入れられたよ」
「そうか、おめでとう」
自然と目頭が熱くなり、ジーンとくる。
安堵と喜悦の感情で押しつぶされそうだ。
「じゃあ、これから華泉を朝に見れるってこと!?」
「半年後だけどね。それと私はそんなメインで頻繁に出る役でもないから結構こっちにいることの方が多いけどね」
「良かった。半年は長いけど、それまで待つね。朝ってすごい暇なんだから」
「ありがと」
あの日花山さんがオーディションに絶対に受かりたいと言っていた理由はこの事だったのか。
「オーディションのこと文殊たちには後で伝えるのか?」
「いや、多分みんな気にしてくれてそうだけど、明日直接伝える。自分の言葉でしっかりと伝えたいから」
「そうか」
「華泉のことは後でお祝いするとして。そうだ、キヨくん。私を占ってよ」
「占うって言われても今道具とかないんですけど」
「そうだよ。占いって本格的なんだから」
「ええ? じゃあ、その卜占部ってやつにいつか私も行っていい?」
「学校違うじゃん……」
「まあ、放課後だったら大丈夫じゃないですか? それか僕たちで伺いますよそちらに」
「ほんと!? むっちゃ嬉しい」
「良かったね」
その後も2人は仲睦まじく話していた。
過去があるから今がある。
今があるから未来がある。
当たり前のようなことだが、俺はそんなことに気づけていなかった。
でも、今は違う。
「私が元気になった時にも卜占部に行きたいんだから、終わったりしないでよ?」
終わらない。終わらないよ。
この物語は終わらない。
これからもずっと続いていく。
──占い師になった俺が至高の青春を創るまで
占い師になった俺が至高の青春を創るまで 神野 兎 @z1nnousag1
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