第46話 俺たちが花山 華泉を救うまで

「そろそろ渋谷に入ったんじゃないの?」


「そうだな。なあ、芦屋。何か分かったか?」


 繋がっている電話に大きな声で呼びかける。

 こうでもしないと風が強くて向こうに声が届かない。

 これをもしひとりで全てどうにかしようとしていたと思うと悪寒がする。


「ある程度の候補は調べたけど、まだ全然わからない。一応今僕が見つけた場所の画像を送るから確認してくれないかい」


「了解。ありがとう」


 芦屋から送られてきた画像を俺の記憶と照合させる。

 いや、どれも違うな……。

 少しづつ焦りが溜まっていく。


「すまん。ちょっと俺が視たやつと違うな」


「そうかい……。他にもう少し何か思い出せないかい?」


「いや、さっきから頑張ってるんだけどな……」


「別になんでもいいんだ。そこに何があったとかじゃなくて、何が見えたかでもいいんだ。そこから見える景色をもう少し教えてくれないか?」


「景色……景色か」


 1つ景色と言われて思い出した。

 最後のトラックが車にぶつかりそうな瞬間。

 俺は確かに鳥瞰して視れていた。目を背けたくなるようなものを何とかしっかりと視れていて良かった。

 その時にうっすらと視たものがあったじゃないか。


「交番だ。交番を視た気がする」


「交番? 本当かい!?」


「ああ、確かにそうだ」


 あのフォルムの建物は交番に間違いないはずだ。


「よく思い出してくれた。僕の記憶からも交番のある交差点の場所ならだいたいわかる。もしほかにあるとしても、これならすぐに絞れるはずだ」


「出来るだけすぐに画像を送るからそのまま桜井さんが言っていた場所の方面へそのまま進んでくれ」


「わかった。頼んだ」


「なあ、梨花。このまままっすぐ進んでくれ」


「おっけー。了解」


「ねえ、今どんな感じ?」


 俺が耳につけているスマホ越しから、文殊の声が聞こえてきた。

 そういや、さっき1度家に帰ると言っていたな。


「ある程度の場所は絞れてきた」


「芦屋が今最後の場所の確認をしてくれているところだ」


「一応今、2つ見つけた。その2つの距離はそこまで遠くない」


「ここから間に合いそうか?」


「まあ、ギリだろうね。一応いま画像を送ったから確認してくれ」


 グループに送られてきた2枚の写真を見比べる。

 間違いない。1枚目が俺の視た場所だ。


「芦屋、1枚目だ。1枚目がその場所だ」


「わかった。すぐに場所の詳細を送る」


「ありがとう」


「今キヨたちはどこにいるの?」


「俺は今ここだ」


 俺と梨花の位置を2人に送る。


「そこからだったら間に合うんじゃない? その横にある中道から行く方が近いよ」


「まじか。ありがとう」


「なあ、梨花あそこの道からまっすぐ行ってくれ」


「おっけえー……」


「大丈夫か?」


「うん。大丈夫……。ちょっと疲れたけど。華泉を助けるためって思ったらこんなところでへばってられない」


「まじでありがとうな」


 芦屋のおかげでこれで場所が割り当てられた。

 あとはどうやって事故を未然に防ぐかだ。

 花山さんの車を直接見つけられればいいんだが。




「もうそろそろなんじゃない?」


「ああ」


 俺が未来で視た事故の時間から10分前になった。

 結局明確な解決策は俺たちの間で探しても出なかった。

 どうしても、花山さんを見つけることが最優先になってしまう。

 もし、失敗でもしたら……。

 いや、そんなことは考えるな。

 今は俺たちを信じるんだ。


「もうそろそろ大通りに出てくれ。もしかしたら、花山さんの車を見つけられるかもしれない」


「なあ、文殊。花山さんの車はわかるか?」


「見たことないから分からない。ごめん」


「花山さんの車なら僕は前見たよ。五芒星から帰る時、白い車に乗って帰って行くのが。車種には詳しくないから詳細な部分はあまり分からないけど結構な大きさだったよ」


「よし、それだけでも分かれば十分だ」


 ……と言っても大通りに出て見れば俺たちの進むスピードよりはるかに速い自動車ばかり。

 何せ色がわかった程度で中にいる人を見つけるなんて至難の業すぎる。

 しかも、運転席に座ってないのだ。後部座席に座っていれば見つけられる可能性はもっと下がる。




 やばいな。そうこうしているうちに目的地に着いてしまう。


「梨花。そこまで行ったら一旦止まってくれ」


「おっけー」


 ここだ。間違いない。

 未来で視た景色と同じだ。もちろん交番だってある。


「ここで間違いない。あの信号まで戻ろう。大通りから来るのは間違いない。だから、ここの道路で何とか見つける事が出来ればいいんだ」


「絶対にみつけよう」


 1度俺たちは来た道に戻り、芦屋が言っていた特徴を持つ車を探す。

 事故の時刻へと5分……3分……と少しずつ近づいてくる。

 大丈夫だ……必ず見つけられる。


 残り1分を切る。

 これが最後のチャンスだ。

 事故現場の前の信号で信号待ちをしている車が多く見える。


「ねえ、あれじゃない」


 梨花が指さす先には、車の列の後ろから3番目くらいにある車だった。

 白い大型の車……。


「やば! 青になるよ」


 その声を聞くと、俺はひたすらにその車へと向かおうとした。

 信号が青になり、進む車とは逆方向に俺はただ走った。

 近づくうちに、白い車の中の助手席に花山さんがいるのが見えた

 花山さんも俺に気づいたらしく、驚いた顔がここからでも見える。


「ねえ、待って。あの子大丈夫?」


 今にも発進しようとする花山さん車の前に俺が着いた時、後ろからそんな声がかすかに聞こえた。

 梨花……?

 振り返ると、梨花が既に自転車を思いっきり漕ぎ出していた。

 梨花が叫んだのは今にも横断歩道を渡ろうとする女の子がいたからだろう。

 俺が未来を視た時にはきづかなかった。

 このままじゃ、花山さんを助けることが出来ても、代わりに梨花が……。

 俺の焦りや葛藤を無視し、時は進む。花山さんの車も前に進み出してしまった。


 その時、俺は無意識に心からの叫喚が出ていた。


「待て!!!!」


 俺の言葉は花山さんと梨花の2人に向けた言葉に間違いない。

 だが、それだけでなくこの不条理で理不尽なそんな世界への吐露だ。

 俺の声に反応したのか、花山さんの車はブレーキをかけた。

 これでとりあえず時間は間違いなくずれたはずだ。

 でも……。


「梨花!!」


 俺の声も虚しく、梨花にはとどいていない。

 梨花は自転車から降りるのか、右足を左足のペダル側に持っていく。

 何をするんだ?

 俺の視界から見覚えのあるトラックが見えた瞬間。

 梨花が自転車を横にスライドさせて、猛スピードで進むトラックの前輪の少し前に投げる。


 ドーンという轟音と共にトラックはスピードが緩まり、女の子の目の前でトラックは止まった。


 まるで、時が止まったかのように人も車も動きを止める。

 俺の空いた口が塞がらないほどだったが、はっと我に返った俺は花山さんに向かって言葉をぶつけていた。


「花山さんオーディション頑張って!!」


 場違いにも程がある言葉が俺の口から自然と出ていた。

 俺が今一番伝えたかった言葉だ。

 俺の言葉に応じて、文殊や芦屋もそれに続く。

 花山さんの車は事故現場から去り、大通りでは無い道を進んで行った。

 俺たちの言葉は花山さんに伝わったかどうかは分からない。


 それでも俺の中には心で覆いきれない程の達成感と疲労に満ちていた。

 警察や救急車のサイレンが聞こえてくる。

 終わったのか……これで。

 終わったんだ……何も無く。

 運命を俺たちは変えたんだ。














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