子育て記録:5 新米落第パパ、憑き物落として帰路に着く
AM2:00
「ぅううっ」
「お帰りさない。そして、とっとと食って帰んなさい」
「何も聞かないのかよ」
「聞いたって。所詮は他人事だもの、一方の話しだけを聞いて判断するなんてフェアじゃないでしょう? 明らかに悪いのはあんたでしょうし」
「ヒドイ……」
「自分が悪いって分かってないDV旦那が今更と被害者面するのなんか間違っているし、子どもから母親を消し去ったあんたなんかが正義である訳がないでしょう」
とまの口からつらつらと俺にとどめを刺すかのような、まるで俺の今までを見て来たかのように言い切る言葉に、俺は致命傷を負っているよ。
「何か。話してきたの? ……奥さんと」
本当にどこに行ったのか。誰に会って来たのか。
どうして、この兎は分かっているのか。
「謝って来た? それとも未来の話しをして来た訳?」
「結局。聞くんじゃないか」
「興味心と探求心よ。やもみたいな立場だと、どう着地点を得るのかしらってね」
「ヒドイ」
俺は乾いた口腔内に初回サービスのドリンクを飲み込んだ。じゅわじゅわ! 喉から体内へと流れ込む飲み物が浸透し痛みが治まったような気がした。味も悪くない。栄養ドリンクやモンエタよりも癒されるような気になる。異世界の飲み物なのは明らかだ。これを飲みに通いたいぐらいだ。
「ただ妻に伝えたのは、
「自業自得なのに?」
「短い時間としか頭にないっ、約二分間って言われたら誰だってそうなるもんじゃないうのか?? いただきます!」
俺は生温くなっていたカレーライスを食べた。
好みの辛さ。いくらでも食べられる
少女のカレーの味も思い出せない。
「また。この店にいつでも来なよ、子どもも連れてね」
とまはテーブルの上に名刺とチラシを置いた。
「この店に来るにはこのチラシと名刺が必要なのさ。チラシに毎回、店の移転先が出て、入店には名刺がカギ変わりになる。そして、そこのドアに
俺はそれを横目に、
「まじでRPGじゃんか」
カレーを頬張った。
「負けんじゃないよ。ぼんくらァ」
彼女なりの叱咤激励のつもりなのか。
「声と着ぐるみのギャップったらヒドイもんだな」
「すっきりした顔になったじゃないか。少なからず、約二分間は無駄じゃなかったってこったね」
「うるさいな。ここじゃあ飯も静かに食わせてもらえないのか!」
「恩も仇に返すのが礼儀なのかい?」
「恩着せがましい兎だな。俺に何をさせたいってんだ」
「別に。ただね、また来るんだよ。赤ん坊と」
ありすを見据えるとまに俺も「ああ。来るかもな」と曖昧な返事をした。それを見透かしたのかとまも続けて言う。
「どうせあんたとその娘は揉めるよ。将来的にさ」
「決めつけんな」
自身とありすを重ねたのか。なんて俺は思った。
「ごちそうさん」
確かにすっきりしたとは思う。これから2人の生活も頑張れるとさえ思う。その先も、あの女を忘れて生きていける。
「なぁ。とま」
「なんだい」
「俺を見つけてくれてありがとうな」
感謝の言葉を残して俺はありすと、やも食堂を後にした。後日、同じ場所に行ったが、とまが言うように何もなくなっていた。しかし、大丈夫だ。俺には通行手形のようなもんがあるから。
辛くなったら食いに行くよ。
必ず。
男やもめの異世界子育て支援食堂 ちさここはる @ahiru
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