第20話 表情
ははははは。
と、恭平は笑う。
まひる、片腕だとラジオの電源を入れるのが難しいよ。
だけど、時間には間に合った。
褒めてくれよ。
「はい、まひるです。
こんにちは。
どうです。
明るく元気な声でしょ。
昨日は取り乱してゴメンなさい。
もう決めたんでした。
何があっても明るく楽しく話そうって。
一瞬忘れてました」
うん、楽しそうな声だよ。
キミは凄いよ。
どんな時でもそんな風に出来るなんて。
本当に尊敬する。
でも今日は俺も頑張ったんだぜ。
なぁ、聞いてくれよ。
面白かったんだぜ、彼の顔。
まひるの話を聴いていたおかげだ。
「君の母親はもしかして……
心配性で災害用水や保存用食料を買い込む癖があるのか?」
あの時の相棒のキョトンとした顔。なんでアンタがそんな事知ってるんだ、って。
まひるが見たら声をあげて笑ってくれたと思うのに。
GURUGURUGUUUUU!
ああ、五月蝿いな。そんな音、聞く気は無いんだ。もう、お前は俺の肩から腕を食いちぎって持って行っただろ。
それで諦めろとは言わないさ。片腕分、今だけ、15分だけ静かにしててくれないかな。
少し前、恭平は大声を上げながらコイツを連れて走ったのだ。
「オラ、来やがれ、イヌッコロ!
聞こえてるんだろう。
追って来いよ。
お前のエモノはこっちだぜ」
それを見送る相棒、キョウヘイくんの驚愕の表情。
「お前は行け!
コイツは俺が引き付ける。
まひるを助けるんだろ!」
なんでその名前を知ってるんだ?!
そんな言葉は走り去る恭平には聞こえなかったけど、顔を見れば分かる。
「へへへへへ。
まひるちゃんラジオを聴いてくれてるあなたなら分かってますよね。
お隣さんの。
お世話になっていたお隣さんの家がついに破壊されてしまいました。
ビックリします。
跡形も残って無い、残骸だけですよ。
まひるの家も明日にはああなってしまうのでしょうか。
タイヘンです!
まひるちゃんピーンチ」
大丈夫さ。
今日彼が辿り着くはずだよ。
ずっとキミが待ってた男がさ。
「……だからこの声をお届け出来るのも今日までかもしれません。
心配しないでください。
これでも逃げ足は速いのですっ。
でも放送セット持って逃げるのは無理ですからね。
なので、今日は記念すべき最終回です」
ははははは。
なんだか身体が冷えて来た。
少し怖いな。
だけどキミが笑ってるんだ。
だから俺も笑うよ。
ははははは。
それにさ、身体は冷えてるけど……精神の中はなんだかとても温かいんだ。
まひるの声のおかげかな。
俺さ……俺今回は間違えなかったよな。
「最終回まで聴いてくれてたあなた、本当にありがとうございます。
最後まで頑張ったまひるちゃんエライでしょ。
そう思ってくれてますか。
聴いてくれてたあなた、あなたもエライです。
頑張りました。
まひるちゃんが褒めてあげます」
あはははは。
ありがとう。
俺も褒めるよ。
まひる、キミは本当に偉いよ。
はは……ははは……は……
GURUGURUGUUuuuU! GUaAAAAAA!
“それ”は対象に近づく。先ほどまで動いていた
近くから音が聞こえていたが、それも現在は途絶えた。
回収しても良いのだが、生命活動を終えた対象は優先順位は高くない。
“それ”は別の対象を探すべく身体を翻した。
“それ”に人間の感情や表情を読み取る機能は無い。もしも“それ”にそんな機能が有ったならば。
対象の
誰か大好きな人が彼だけに語り掛けてくれているような。
そんな楽しそうな表情を浮かべている、と。
終わった世界に響く声 くろねこ教授 @watari9999
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます