第19話 助けに行く相手

 立ち尽くす少年の腕を引っ張り恭平は走る。ゲートの様な場所は開いたまま。今なら入る事が出来る。


「……な……なんで大島さん……」


「いいから行くぞ」


「だけど!」


「あの老人はキミに賭けたんだ。

 キミがあの街から家族を救い出してくれるかもしれない、その希望に全てを賭けたんだ。

 それを台無しにするのか!」


 少年は黙って頷くと、走り出した。情報電荷都市エレクトリックシティの入り口へ。

 

 ……ここが……

 夜の暗闇で全貌は見えないが、門塀を通り過ぎあの場所へ辿り着いたものの。内部は左程外と変わらない。

 崩され廃墟となった家屋やビル。その先に新しく作られた建物らしき物も見える。

 良く分からないが、家屋が崩されその材料で新しい建築が造られているのでは。

 パッと見で感じる。アレは人間が棲む為に作られた物では無い。

 

 恭平は観察を止める。どうせ自分が考えても変わらない。現在はこの廃墟から生き残りの人間を探す。


「よし、キミはこの辺の出身なんだよな。

 自分の家の場所分かるか」


「目印が全部壊されてて……クソッ。

 でもあっちだと思う」


 少年の指差す方へ動こうとする。だが物音に恭平は凍り付く。


 GURUGURUGUUuuuU! GUaAAAAAA!


 人間に死をもたらす獣の唸り声。


 もう一体いたのか。

 間隔が短すぎやしないか。

 先ほどのは一体じゃなかった。こいつも一緒の二体。

 なにかでこの個体だけ少し遅れていた。

 幾つもの思考が頭を駆けめぐるが、何が正解かなど分かる筈も無い。


「俺が、俺が引きつける。

 アンタは行ってくれ」

 

 しゃべるな。

 声は出したくないので、そう念を込めて、少年を睨む。伝わったと思うのに、少年は話を止めない。


「俺、行けない。

 行く資格無い。

 母親を助けに行くなんて嘘なんだ。

 大島さんを騙しちまった。

 『キョウヘイ、おふくろさんを大事にしろ』

 なんて言ってくれたのに!」


「俺……俺、隣の家にいる筈の女が気になって行くだけなんだ」


「……彼女か?」


「違うよ!

 ただ隣に住んでて同い年で……

 昔は良く遊んで、高校が分かれちまったから最近はあまり話せてなくて……

 それなのに……それだけなのに……助けに行くなんておかしいだろ……

 だから母親のためなんて言っちまった」


「キミの名前は……キョウヘイと言うのか?」


「……?……

 そうだよ。

 共同体コミュニティの人は略してキョウなんて呼ぶけど……」

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