第36話
まさか、こんなことになるなんて……。
夏休み初日、私――真壁は、想像していなかった事態に混乱していた。
――けれど私の状態を説明する前に、そうなった経緯を順を追って説明しよう。
* * *
「良かったら、俺達の家で夏休みの課題やらね?」
夏季休暇前日、空井君が私と日向へとそう告げたのだ。
「えっと……それは、如何いう――」
「良いな、それ!」
私の疑問を遮り、日向が声を弾けさせる。
「前テスト勉強したみたいに、四人で課題片付けようぜ!」
「日向、なんでそんなノリノリなの?」
この前のテスト勉強、そんなに楽しかったのか?
そう考えてから、私はその時の事を思い起こした。私の記憶に強く残っているのは、旭君が近距離へと顔を寄せて日向に勉強を教えている光景。
まさか、日向はあの時の事が楽しかったと!?
なら、旭君と空井君の家に行けば。またその眼福な光景を拝むことが出来るということか!?
「宜しければ、是非!」
私は私の欲求に抗えず、この提案に乗じてしまったのだ……。
そして、二人の家にお邪魔させて頂く当日。
私は日向と共に、手土産にプリン(少しだけお高め)を購入してから待ち合わせ場所の駅へと向かう。
「真壁ちゃーん! ヒナちゃーん!」
すると空井君、それに旭君が迎えにやって来てくれた。
「よっ、空井に旭!」
日向が明るく声を掛ける。
「本日はお邪魔させて頂きます」
私はペコリとお辞儀をして、二人に言った。
「真壁ちゃん、そんなかしこまらなくっても大丈夫だよ~。ムサイ野郎の一人暮らしの部屋だからさ~」
「ムサくて悪かったな」
冗談っぽく告げた空井君の言葉に、旭君が少しムッとした様子で言う。
うむむ……お隣に住んでいるというのは聞いていたが、やっぱり空井君と旭君の距離はとても近く感じる。なんか普段より、旭君の感情が豊かに思えるし……。
本日は、課題をやる傍ら。旭君と日向のサポートにも尽力せねば……!!
「真壁ちゃん、資料重くない? 俺持つよ!」
そう思惑を巡らせていると、空井君に声を掛けられる。
「い、いや……大丈夫だよ、これくらい……」
この前、合コンの日に結構話したけど……私はイマイチ、まだ空井君との距離感を掴めないでいる……。
「良いから良いから! 俺、手ぶらだし!」
と、押し切られ。私のバッグは空井君にさらりと奪われてしまう。
「あっ、ありがとう……」
こういうの出来る男子、モテるんだろうなぁ……と、私は思わず感心してしまった。
「日向、俺も手ぶらだから。荷物、持つよ」
すると、隣で美味しそうなイベント発生。
「えっ、別に俺は平気だけど……」
「荷物、多いだろ。半分、手伝わせてくれ」
言いながら、旭君は教材が入った日向の大きなトートバッグを持ち去った。日向の手には、私と一緒に買った四人分のプリンが入った紙袋だけが残る。
「おい、そんくらい持てるっつーの!」
「良いから。暑いし、早く行くぞ」
「あっ、待てよ旭!」
歩みを進め始める旭君を追いかけ、荷物を取り返そうとする日向であったが。身長差と対格差で、旭君に軽くあしらわれてしまう。
その際、旭君が楽しそうに。必死に突っかかる日向へ視線を向けているのを、私はしっかりと視界と記憶に刻み込んだ。
(初っ端から眼福……!! 今日は良い日になる予感しかしない!)
と、考えていると。
「真壁ちゃん、俺達も行こっか! 二人に置いてかれちゃうよ!」
空井君に声を掛けられた。
何なら本当は、私達のことなんて置いて二人の世界へ行って欲しい……でも、二人のイチャイチャ(仮称)を公式で見れるチャンスが……。
結局、私は。自身の欲望に抗うことは出来ず、空井君と共に日向と旭君の後を追いかけるのであった。
私は君達を見守る壁である!! 志帆梨 @prayalone
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