戸張さんと動物占い

そばあきな

戸張さんと動物占い

 今、女の子たちの間で友達を動物に例えて相性を占うのが流行っているらしい。


 その相手は友達だったり、好きな人だったり、何度か話しただけのクラスメイトだったりと、様々だった。

 聞かなければ分からない血液型や誕生日と違って、動物占いはその人の見た目や雰囲気から決めるものだから、直接本人に聞かなくてもいいというお手軽さが人気の秘訣らしかった。


「そういえば、この間大神くんを動物に例えるならって話になってたよ」

 隣の席の戸張さんは、授業中にこっそり僕にそう教えてくれた。


「……え、僕は狼だけど…………」

「そうだね。狼男と人間のハーフだもんね」


 そう言って、戸張さんが少しだけ楽しそうに笑う。

 秘密だと知っているのに、授業中に話す戸張さんは少しいじわるだと思った。



 ――戸張さんの言う通り、僕は狼男と人間のハーフだ。


 知られてしまうと騒ぎになってしまうので普段は隠しているけれど、色々あって戸張さんには知られている。

 だから、僕は戸張さんと話す時だけは秘密や自分が人間ではないことを意識せずに話すことができているのだ。


 戸張さんは僕が人間ではないことを知っているはずなのに、前と同じように僕と接してくれている。

 それは、普通の人間ではない不思議な誰かを集めやすい戸張さんの一つの才能かもしれなかった。


「安心して。大神くんは大型犬ってことにしておいたから」


 それは安心なのだろうか。


 ただ、狼はイヌ科に分類されるので嘘は言っていない。大型犬という答えが出るのも、あながち間違いではないのかもしれない。


 ――戸張さんは、一体何の動物なんだろう。


 ふとそう思ったけれど、戸張さんは「人間」という答えが一番しっくりくる気がして、僕には上手く戸張さんを何かの動物に例えることができなかった。



 ★



 今、クラスの女の子たちの間で友達を動物に例えて相性を占う「動物占い」が流行っている。


 その相手は友達だったり、好きな人だったり、何度か話しただけのクラスメイトだったりと、様々だった。

 聞かなければ分からない血液型や誕生日と違って、動物占いはその人の見た目や雰囲気から決めるものだから、直接本人に聞かなくてもいいというお手軽さが人気の秘訣だと、友達は言っていた。


「ねえ、戸張さんは大神くんを動物に例えるなら何だと思う?」


 そう友達に聞かれたのは、登校して机に鞄を置いてすぐ後のことだった。

 隣の席の席を見る限り、大神くんはまだ登校していないらしい。


 私に大神くんのことを聞いた彼女は、当然ながら大神くんが動物に例えるまでもなく、答えが「狼」であることを知らない。

 だから、これは単純に大神くんの占い結果を見たいんだなと私は考える。


 ――もしかしたら、大神くんはクラスの中で人気がある方なのかもしれない。


 前に一度動物占いの話をした時に、大神くんは「何度か話しただけのクラスメイトでも占うんだね」と納得していたけれど、普通そんなことはしないと思う。

 少なくとも、何か気になっていたりしていなければ占いの対象にはしないはずだ。


 そう思いながら咄嗟に質問の正解を言おうとして、すんでのところで止めることができたのはよかったと思う。


「…………お」

「お?」


 でも、途中で止めてしまったからとても変な空気になってしまい、目の前の友達が首をかしげてしまった。

 どうしようかと一瞬迷った後、私はギリギリのところで別の動物の名前を出す。


「…………大型犬、とか」

「あー分かる! ゴールデンレトリバーとか!」

「そうそう、それ…………」


 友達は納得した様子で、本で占いの結果を確認するのだろう、自分の席に戻っていった。


 どうやらうまくごまかせたらしい。

 でも、さっきの答えで「狼」と言い切っていたらどんな反応をしていたのか、少しだけ気になった。



 ――半分狼男の大神くんに、大型犬だって話をしたら、何て言うのだろうか。



 今日のどこかで話してみよう。

 大神くんがどんな風に答えるのか、ちょっとだけ楽しみだった。

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