【番外編】荻野編リターンズ①~秋・友達以上恋人未満~

 ※これは、真壁が高一でまだ加賀美に告白する前、灯花と付き合う前の時間軸になります。荻野視点・荻野ルートです※


「ああ、終わっちまった……」


 あたしが空っぽになったダイキュリーアイスの箱を名残惜しそうに処分していると、真壁は隣で爽やかな笑みを浮かべる。


「はは、そんなまるで終末みたいな顔すんなって」


「でもぉ……ダイキュリーアイスはこれが最後のひと箱だったのに」


「また来年があるじゃん」


 そんな真壁の、飾りっ気のないあたしだけに見せる笑みは、ダイキュリーアイスを味わったあとの爽やかさにちょっと似てるな、なんて思ったり。


(あたしの一番好きな味か……)


「でも、来年またダイキュリーアイスが復刻するかわかんないし……」


(真壁がいつまでアイス屋ここでバイトして、あたしの隣にいてくれるかわからないし……)


 話によると真壁は、アイス屋の常連さんである美人ギャルな坂巻さんや、ふわふわおっぱ――じゃなくて、ゆるふわ優等生の白咲さんにも告られたっぽいし。返答は、真壁が加賀美さんに告るまで一旦保留らしいけど……

 もし真壁が誰かと付き合うってんなら、あたしもこんなバグった距離感で四六時中一緒にいるわけにはいかなくなるんだろーな……


 哀愁漂うあたしはほんのりと心に秋を感じていた。

 でも、真壁にはそんな寂しさなんて1ミリも伝わっていない。


「もう秋だもんな。これからはすっかりハロウィンフレーバーな季節だ」


(くそ。この鈍感にぶちんヤローがよぉ……!)


 結局あたしは真壁のファーストキスを奪いはしたものの、付き合うには至らなかった。まぁ当然っちゃ当然だ。「好きだ」と伝えた割には六美さんのことも好きだと公言し、どっちつかずだったあたしのせいでもある。

 でもしょうがないじゃん! どっちも好きなんだもん! 真壁相手に嘘ついてどーすんだって話!!


「ったく、どいつもこいつも芋いも栗くりパンプキンって……! ハロウィーンならオレンジと紫で染めればなんでもいいってわけじゃないんだぞ!!」


「おい、ダイキュリーアイスが終わっちまったからって新メニューに当たるなよ……」


 たはは、と困ったようにメニュー表を上から取り上げる真壁は、あいつが思っているより割と高身長ですらっとしている。

 メニューをめくる指先は細くて長くて、でも、新メニューにどこかわくわくとしたような瞳はあどけなくて、そういうところが……好き。


 ああもう! ぜってーわかってない。

 その『どいつもこいつも』に真壁も含まれてるってこと!!


 ちらっと横目で見ると、真壁は新メニューという一足早い秋の訪れに浮足立っていた。夏の繁忙期が終わって仕事に余裕ができたってのもあるんだろう。目に見えて上機嫌。雑談する余裕はありまくりだし、ときたま来るお客さんにいつもの三割増しくらいの営業スマイルをかましている。


「はい、気を付けて持ってね。また来てね~!」


 ……と。五歳くらいの幼女ににこにこと手を振る。

 そうして、さも嬉しそうに。


「はは! 『お兄ちゃん、また来るね』だってさ。可愛い!」


「~~~~っ!!」


(意味わかんない! なにその嬉しそうな顔! 『可愛い!』だって!? おめ~もだよ! 可愛すぎか!? その殺人スマイルをどうにかしてくれ!! 営業だってわかってても「いいな」って思うのに、そうやって心から楽しそうにされるとさ~、もうさぁ~!!)


 好きになっちまうだろうが!!!!(もうなってる)


「つか! 幼女まで射止めてどうすんの!?」


「は? 射止めるって……なに言ってんの、荻野?」


「いくら幼女が可愛いからって、今のスマイルは殺人級だから!!」


 実際、全あたしがハートを撃ち抜かれて死にました。


 そんなあたしを横目に、真壁は次の来客に備えてさっき使用したアイスディッシャーを洗う。その流れるような慣れた手つき……シゴデキ。好き。


「でもさぁ、可愛いじゃん。ちっちゃい子が小銭握りしめてアイス買いに来てくれて、お母さんが遠くでおつかいを見守ってて。俺好きなんだ、ああいうの。なんかあったかくてさ。俺は家がさぁ――いや、なんでもない。荻野だって、幼女相手にするときはいつもの二割増しにこにこじゃん? 子ども好きなの?」


「……え? は? そう……なの?」


「え? 気づいてなかったのか? 荻野はちびっこ接客するときはいつもより笑顔だよ。だからてっきり子ども好きなのかと思ってた」


「言われてみれば、そうなの……かも?」


「まさかの無意識とか。荻野、やっぱ良い奴だな」


「~~~~っ!!」


 瞬間。ボッと両頬が熱くなるのを感じる。


(うう、くそ……あたしの知らない分まであたしのこと見てるとか、反則じゃん。うああ、やっぱ好きだよぉ……もういっそきちんと告ろうかな……)


「はぁ~。にしても、もう秋かぁ……」


 しみじみと真壁がそう呟くように、夏がもう終わるのだ。


 きっと、多分、白咲さんも坂巻さんも恋に結末が訪れるように動きだすのだろう。

 真壁も近々加賀美さんに告白すると言っていた。


 もしその告白が終わったら……どうなるんだろう?


 あたしと真壁のこの距離感もお終い?

 なんかそれは……ヤだなぁ。

 別に、真壁の告白がうまくいきませんようになんて微塵も思ってないけどさ、この距離感が終わっちゃうのが純粋にヤダ。


(ああ~……どうしよう)


 真壁には幸せになって欲しいよ。親友として、それは当たり前の感情だ。


(あたし……男だったらよかったのにな)


 そしたら、真壁の隣にいつまでも親友としていられたのに。


(……って! なに諦めてんだ、あたしのバカバカ!!)


 秋のせいか!? このちょっと涼しくて寂しい空気のせいか!?

 らしくもないこと考えちゃった!!


 欲しいものがあるなら、とことん手ぇ尽くして手に入れるのがあたし流だろーが!!!!


(……うし。決めた)


 真壁の告白が終わったら……


 あたし、ガチでいこう。





※あとがき※

 すっっっっっっごくお久しぶりの更新です。

 多忙と病気で半年近く執筆できていませんでしたが、生活に少し余裕ができたので書いてみました。すこしでもお楽しみいただければ幸いです。


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アイスクリーム屋でバイトはじめたら、好きでもないクラスメイトにくそモテる 南川 佐久 @saku-higashinimori

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