第8話

 典江は好きな様に趣味を楽しめなかった事に不完全燃焼を感じながらショッピングモールを後にした。その途中で遥子への誕生日ケーキを買って帰るのを忘れてしまい戻るか悩んでいたところ反対車線側に、小洒落たケーキ屋を見つけ、駐車場に入ろうとすると50m程先の交差点で左折をした車が明らかに法定速度を超過して物凄い勢いでクラクションを鳴らしながら典江の車目掛けて突っ込んできた。慌てた典江はアクセルを踏み込んで間一髪駐車場に入る事ができた。

(何なの?あの車、急にスピード上げて嫌がらせなの?)

 趣味をあまり楽しめなかった典江は、只でさえイライラしていたのに更に怒りを募らせるのだった。

(腹立つなぁ。スピード違反は度重なる重大事故が原因で禁止になっただろ!)

 車の運転は世の中の変化に合わせて厳罰化が進んでおり、飲酒運転は感知したらエンジンが掛からず、スピード違反は制限速度を少しでもオーバーしたら科料ではなく、罰金になっていた。

(私も若い頃は法定速度など気にした事が無かったが、今は時代が違うでしょ!)

 自分が禁止されている右折をした事がきっかけでクラクションを鳴らされた事は頭から消えていた。


 家に帰り、夕飯の準備をしていると、テレビから衝撃の事件が流れてきた。

 20km/hの速度超過で車を運転し、歩道に乗り上げ10人の死傷者を出す事故が起きたのだった。運転者は操作を誤り、ハンドルを切ったところ歩道に乗り上げ人をはねた。そんなニュースを聞いた典江は昼間の出来事が沸々と蘇ってきた。

(スピード違反はもっと厳罰化すれば良い。何でルールを守れないマナーの悪い運転手が多いの?)

 

翌日からニュースはこの事故ばかりになり、出演者全員が被害者を慮り、加害者に厳罰を与えろとの論調だった。ネットの中でも死刑にすべきとまるで自分達が裁判長かの如く、事件の加害者を誹謗中傷した。しかし、典江も同じ気持ちだった。いつ自分が轢かれるかも知れない、次は自分の番かも知れないと思うともっと厳罰化して欲しいと願うのだった。


 


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家族の真実 美心徳(MIKOTO) @bitoku

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